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菊池編2011『季刊 考古学』第116号 [近現代考古学]

菊池 実 編 2011 『季刊 考古学』第116号、特集 戦争と慰霊の考古学、雄山閣

「戦争遺跡は、日本の侵略戦争や植民地支配に関わる歴史的事実を伝える。さらには地域が戦争で失った貴重なもの、地域が戦災のあと復興し生きてきた歴史を考えるうえでも、調査研究、そして保存活用されるべき遺跡なのである。」(菊池2011「戦争遺跡の調査研究を考える」:17.)

同じ筆者が同じ活字媒体に発表してきた過去の文章群(菊池2000「近代戦争遺跡調査の視点」『季刊 考古学』第72号、菊池2007「戦争遺跡の問題点」『季刊 考古学』第100号)と読み比べることで、当該研究がたどって来た近年の研究情勢の変化を窺い知ることができる。

「あるいは「負の遺産という前提で捉えたくないために」敢えて「軍事遺跡」とし対象を限定する(飯田 則夫2004『図説 日本の軍事遺跡』河出書房新社)などの指摘がある」(15.)ことに対しては、「軍事遺跡の視点からでは国内外に残されている遺跡を正確に理解することはできない。軍事遺跡なる用語は、戦争遺跡の中の一項目、軍事に関わる遺跡として把握されるべきものである。」(同)との応答がなされている。
しかし問題は、用語選択やその位置づけに留まるものではないだろう。

「群馬根岸中隊長も1946(昭和21)年2月9日49歳の生涯を閉じ、間もなく婦人も後を追った。現地人からは「小日本鬼子、日本完国了」と罵声を浴びせられ、暴徒からは着衣に至るまで略奪された。ようやく帰還した隊員たちは「侵略者の先兵、略奪者」などの耐え難い非難をあびた(大利根同志会1995『曠野に消えた青春』)。」(原田 恒弘2011「戦争被災者の慰霊」:96.)

7年前に記した文章の註(五十嵐2004「近現代考古学認識論」:345.)にて引用した文章を想起せざるを得ない。

「国立博物館をはじめとして日本のおおくの博物館や美術館に侵略した地域や国から奪ってきたものが陳列されており、日本の各地に「忠魂碑」や「戦勝記念碑」や侵略者の銅像などがたっていますが、日本の侵略の証拠はそれだけでなく、ダムも、トンネルも、鉄道も、道路も、港湾も -もちろんすべてではありませんが- そうなのだとおもいます。
ふだんの生活のなかでは見過ごされていることが多いのですが、自分たちが歩いている道々が日本の侵略の証拠だといえるのではないかと思います。」
(キム チョンミ1996「日本のすべての地域に侵略の証拠がある」『故郷の世界史』:242.)

編者の巻頭の文章では、「追記」として今回の大震災に関連した思いが述べられている。

「敗戦後、「一億総懺悔」などと言って日本人による戦争責任、戦争犯罪追及が疎かにされたが、今回の大震災や原発事故による「国難」のもとで、関係する産官学や政治家への責任追及が疎かにされるようなことがあってはならない。」(17.)

文章前半で述べられている事柄、すなわち日本考古学の戦争責任追及に関しては、過去形で述べられるような「過ぎ去ったこと」ではなく、現在進行形、今まさに「起こりつつあること」と思わざるを得ない。

「…過去の歴史的事実を研究することは可能であるが、様々な現代政治的問題が絡むことや、西アジア考古学会の事例等々の意見が交わされた結果、今後も継続的な扱いについて検討することとし、…」(日本考古学協会理事会2010年6月26日「6月理事会議事録」『日本考古学協会会報』第170号:79.)

ここには、確かに「過去の歴史的事実を研究すること」と「様々な現代政治的問題」を明瞭に分離することが可能であるという考えが示されている。
「戦争遺跡を調査研究する」には、何よりもまずこうした考え方(政学分離主義)と対峙していくことが不可欠である。
実はこのようなことは、今から40年以上も前になされた江坂-小林論争において、既に明確に指摘されていたことなのだが。

「学問研究ということと社会・政治とは、現実問題としていま一線を画して考えることはできないではないか。学問研究の枠内で学問をしてきた姿勢は、戦前・戦中を通じての皇国史観に対する批判から逃避し考古学資料に没入することで自らの生命を保ち、戦後のブームの中での考古学の社会的評価をいつまでも保とうとした発展性のない考古学界の体質が示しているようにいまでも流動的な社会状勢の変化に対応できずにいるではないか。このような総括的な反省にたって、いままでの「趣味的な考古学」や「専門バカ的な考古学」から脱却し、今後のあるべき考古学界、日本考古学協会への展望が生まれるであろうし、そのために、われわれは相携えて行かねばならないだろう。」
(小林 三郎1969「考古学界断想」『考古学ジャーナル』第35号:24.)


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