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キアロスクーロ [雑]

レンブラント -光の探求・闇の誘惑-

日時:2011年3月12日~6月12日
場所:東京・上野公園・国立西洋美術館

「レンブラント版画の真骨頂が明暗表現にあるとするバルディヌッチの評価は、今なお真実であろう。レンブラントが黒の諧調を追求したのも、和紙の中間色を使って微妙な諧調を追及したのも、明暗表現に対する深い配慮からであったと思われるからである。レンブラントにとって、キアロスクーロへの関心はさまざまに変奏しつつ、その初期から晩年まで一貫して持続したのである。」(幸福 輝2011「レンブラント 光の探求/闇の誘惑」に寄せて」『レンブラント 光の探求/闇の誘惑』:8.)

「「キアロスクーロ」(chairoscuro)という用語は、イタリア語の"chiaro"(=明るい)と"scuro"(=暗い)に由来するが、それは単なる陰影、あるいはこの明暗の要素の自然なコントラストを指すのではなく、このようなコントラストを、しばしば誇張気味に用いて、芸術作品に劇的なインパクトを増大させるような描き方を意味していたようである。」(マーティン・ロイヤルトン=キッシュ2011「光を放つ:レンブラントのキアロスクーロの諸側面」同:16.)

カタログなどの紙媒体によって、作品に関する様々な情報、製作年代や製作技法、製作時の作者の環境、絵画史的な意味などを知ることができるが、実物(本物あるいは複製品)でないと分からない、実感できないのが、その大きさである。
例えば図録の表紙にも採用されている本展示の目玉の一つ「アトリエの画家」(ボストン美術館)は、24.8×31.7という数字を示されていても、実際に目にするまでは、あれほどの小品とは思わなかった。こうしたことは、本件に関わらずしばしば経験するところである。

「版画」という媒体が、一般絵画とは異なり、「刷る」という行為による作品の多数性が特徴とされるのは周知のことだが、「版」自体の改変(ステート)および「用紙」自体の多様性(和紙・洋紙・絹・羊皮紙など)の組み合わせによって、正に変幻自在であることがよく分かる展示であった。

しかし17世紀に、あのデッサン力、あの表現力、何度見ても溜息がでる。

最後にレンブラントと近現代考古学の繋がりを示す文章を引用しておく。
「本カタログの著者とその息子は、この原版の切断された部分をレンブラントは一体どうしたのだろうかと考えた。彼はそれらをごみ捨て場に捨てたのかもしれない。こう考えた結果、われわれは、アムステルダムのレンブラントハイス美術館の中庭にある、レンブラントのごみ捨て場を発掘し始めた(1996年)。<雄豚>が彫られた1643年頃、レンブラントはここに住んでいたのだ。しかし、原版の廃棄部分に代わってわれわれが見つけたのは、1640年代に属するたくさんのポット、コップ、子供のおもちゃ、卵の殻、サクランボの種などであった。それらすべてがレンブラント家にかかわるものであった証拠に、鉛白の顔料の入った壺や、その他のアトリエに由来する品々が発見された。アムステルダムの普通のごみ捨て場とは対照的に、煙草のパイプは見つからなかった。おそらく、レンブラントは喫煙しなかったのである。」(テオ・ラウレンティウス2000『レンブラント版画展』:104.)


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コメント 2

硝子

御無沙汰しております。
レンブラント展、失念しており記事を拝読して思い出しました。時間があれば行きたいと思います。
フランスの小説家ジャン・ジュネの美術エセーに『小さな真四角に引き裂かれ便器に投げ込まれた一幅のレンブラントから残ったもの』という作品がありますが、私は世の絵画に関する文章の中で、これ程完成度が高く、美しい一級品を他に知りません。御勧め致します。
今度の協会はやさぐれていないで参加する予定です(二日目だけですが)。
by 硝子 (2011-05-15 15:36) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

コメントありがとうございます。
18世紀のレンブラント版画カタログは「自画像」「旧約聖書」といった主題別構成をとっていたのですが、19世紀後半になって美術史学が成立して以降は「編年構成」が採用されるに至った、ということを知りました。そしてその多くの製作年代が不明な版画の編年を構築するのに際して、最も有効だったのがウォーターマーク(透かし)による分類だったということです。何せレンブラントが使用したウォーターマークの種類は300種類以上になるそうです。但し和紙には当然のことながらそうした手掛かりがないために、東インド会社の日本からの積荷目録との対比までなされています。モノ研究の流れというのは、どの分野であれ同じであることが分かります。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2011-05-15 18:00) 

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