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グローバル正義のための考古学者たち [総論]

Archaeologists for Global Justice: AGJ

(前回記事【2011-1-6】参照、以下はウェブ掲載文章から)

背景
「グローバル正義のための考古学者たち」は、現在の世界に広がり増え続ける不正義に抵抗するために立ち上がった。これは、イギリス・シェフィールド大学の考古学者たちによって企画・運営されており、そもそもはイギリスがイラク戦争に関与することに反対する反戦考古学者たちの活動が契機となっていた。「AGJ」が結成された理念は、2005年にシェフィールド大学を会場とした「理論考古学集団」(Theoretical Archaeological Group: TAG)の研究集会において「永続的な矛盾 -イラク戦争後の世界における考古学と社会的責任-」と題して開かれた部会における広範な参加者に対する呼びかけであった。このグループは数多くの議論と相互作用により高まり、不正義に対する反対の意思表示を行おうという願いを表明するに至った。

宣言
考古学の目的は、過去の人間活動の物質的痕跡を人間行動と社会の解釈として用いることである。過去の人間社会に対する私たちの視点は、共有されている人間の過去と現在の問題について、それが社会的であろうと、政治的あるいは自然環境的であろうと、優れた見通しを与えうるということである。

考古学という学問は、研究の対象と共に対象を探求する原則および実践の双方によって定義される。理性的な議論を通じてなされる論争と正当化における関連性、言行一致、首尾一貫性といった諸原則は、私たちの学問自体と不可分なものである。

私たち考古学者は、単に過去に関する記述に留まらず、人間生活の性向と可能性をより良い方向に向かうように理解させる責任があることを主張する。人間社会の批判者と分析者、活動的な参加者および観察者として、私たちは反人道主義、非持続可能性、人間生活と社会に破壊をもたらす諸力に反対する責任を有すると考える。

私たちは、「グローバル正義のための考古学者たち」が連携する基礎として、以下の諸原則を提示する。

原則
1.私たちは、「グローバル正義運動」の諸原則に共感し、社会的政治的な関連事項に考古学者として積極的に参加する。
2.私たちは、人種、民族、宗教、年齢、性別、性的嗜好に基づくいかなる差別に対しても積極的に反対する。
3.私たちは、いかなるいやがらせや脅迫からも自由であることを表明する個々人の権利を信じ、それはこうした意見が暴力の推進を構成せず、かつ他者の尊厳に敬意が払われる限りにおいてであることを信じる。
4.私たちは、世界の平和を信じ、自己防衛という極端な場合でなければ、それが政府によってなされようと他の諸組織であろうと、考古学者として武力介入に対して、どのような直接的なあるいは間接的な支持もしない。
5.私たちは、世界中のあらゆる人々が十分な富を得る潜在性があることを信じ、また資源の分配にあたっては不平等さを遂行および/ないしは促進するいかなる組織も支持・推薦しない。
6.私たちは、地球に対して人類が与える影響に関心をいだき、持続可能な諸原則に基づかないあるいは環境に対する主な損壊の原因となる可能性を有するいかなる開発計画に対しても協力しない。
7.私たちは、保守的体制の形成はある意味で人間社会において固有のものとして認めるが、平和的な議論、批判、開かれた論争を通じて社会的政治的地位が獲得されるような不断の必要性があると信じる。
8.私たちは、学問の基礎としての調査は個人間や組織間の競争によるよりも協調する傾向によってより進展するものと信じる。さらにこうした原則と両立しない何らかの行動や発言を拒否する。
9.私たちは、探求と開かれた討議という精神に基づく調査に関する文化から専門性が生じると信じる。こうした文化は職業的専門家、非職業的アマチュアやボランティアとして考古学を実践している人々にも適合される。私たちは、商業主義と競争原理に基づく専門性という考え方を拒否する。
10.私たちは、考古学としての社会的実践は、知識と理解の創造と普及を通じてあらゆる人々に利益をもたらすことを目的としていることを信じる。その実践者は、文化的なクリエイターかつ公認の専門家の一員として、その地位に相応しいあらゆる雇用とその他の諸権利が、社会の生産的なメンバーとして取り扱われるべきである。

このウェブ・ページで表明されている見解は、このグループの推進者たちのものであり、シェフィールド大学考古学部による保証や他のメンバーによる共有は必要とされない。

以上のような文章と共に、頭上で砲弾が飛び交う塹壕の中、銃を持つ兵隊があきれて見守る傍らで夢中になって土層断面のスケッチをする考古学者が描かれたカトゥーン(ヒトコマ漫画)が示されている。添えられている文章は「素晴らしい! これがあなたの考古学のための時と場所なんだ。知らなかったのかい?」というものである。日中戦争時、白骨を踏み越えて土器を採集して回った日本人考古学者らを想起させる【2007-3-19】参照。

第1原則で述べられている「グローバル正義運動」とは、グレーバー2006【2007-3-10】や高祖2009【2010-11-11】で紹介されている、世界を変革しようとする具体的で実践的な反権威主義的な地球規模の社会運動を指す。

「実際グローバル・ジャスティス・ムーブメント(Global Justice Movement)に参加することによって初めて、私はそれが人間の可能性の宝庫として意義があることを、はっきり理解するようになった。それが何よりも疑問視するのは、学問世界のいくつかの虚偽である。われわれが世界にとって重要な何事かを知っていることは確かである。だがわれわれの思考と議論の過程、われわれが知を使って実践すること―それらは特権主義的、セクト主義的習慣にどっぷり浸かっている。」(デヴィッド・グレーバー(高祖岩三郎訳)2006『アナーキスト人類学のための断章』:21.)

「「68年」は失敗した「単独革命」だったのか? それは世界各地の民衆の闘争が、多かれ少なかれ同時的に強度の稜線を継続させた台地(プラトー)であったこと、そしてそれらがそこここで複数の記念碑を生産したことは確かである。だが「失敗した単独革命」と看做すのは、誤謬である。何らかの理由で、それを葬り去りたい者たちの定義である。通史的には、それは世界南部の民衆の幅広い闘争に大きな息吹を受け、各地のマイノリティーの公民権運動やその他の都市的闘争の継続として起こり、反原発やフェミニズムや囚人解放に、そしてザパティスタやグローバル・ジャスティス・ムーブメントに批判的に継承されていった。」(高祖岩三郎2009『新しいアナキズムの系譜学』:114-5.)


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通りもん

銃を持つ兵隊がCarruthersだというのに。
一緒に調査しようといっているのに。
「戦争するくらいなら発掘しよう」ともとれるのに。
それならいいたいことは真逆だというのに。
by 通りもん (2011-01-18 23:28) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

コメントありがとうございます。Carruthersというのがよく判らなかったのですが、ダグラス・カラザースのことだとしたら、おっしゃるような解釈の方がいいのかも知れません。いずれにせよ、考古学も現代の政治状況と無縁ではないということだと思います。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2011-01-19 22:40) 

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