SSブログ

比嘉 豊光、仲里 効ほか2010「骨の戦世(イクサヨ)」『世界』9月号 [近現代考古学]

比嘉 豊光「骨の戦世(イクサヨ)」巻頭グラビア、「グラビアについて」(303.)
仲里 効「珊瑚のカケラをして糺しめよ」(214-221.)
北村 穀「遺骨は誰に遺されているのか」(222-229.)
西谷 修「”黄泉かえる”骨の見る六五年目の沖縄」(232-235.)

「具志堅氏が提案する遺骨収集が革新的だったのは、その文化財発掘作業に近い手法にあった。機械力に頼るのではなく、人の手で丹念に地表面を掘り起こしていく考古学的ともいえる方法がとられたのである。その目的は、遺骨だけではなく、遺品・遺物の出土状況や戦死者の死亡状況といった情報をも含めて収集・記録し、それを戦史や証言記録と照合することで、戦死者の身元の解明につなげることにあった。それは、単なる遺骨の回収に過ぎなかった、つまり遺族に遺骨を還すことを目的としてこなかった、これまでの遺骨収集の在り方に対するアンチテーゼを意味していた。」(北村228.)

石組みの近世墓の中に人骨が丁寧に掘り出されている。鉄兜?の上に横たわる口を開けた人骨。最後に発した言葉は何であったか? 氏名の読み取れる印鑑、「軍艦熊野」の線刻。それぞれの遺体の近くには、白い丸いモノも見える。何だろうか? よくよく見れば、グリッド・ピンである。
「考古学的ともいえる方法」というより、考古学そのものの方法、近現代考古学以外の何物でもない。

遺骨収集作業を担当する厚生労働省社会・援護局と沖縄県福祉・援護課が行っている作業は、道路工事や宅地造成など工事現場からたまたま掘り出されたものを土建会社に委託して回収しているに過ぎないという。それは重機で遺骨がありそうな場所を掘り出し、残土の中から遺骨を拾い出すという方法である。こうした「遺骨収集作業」に疑問を抱いた市民がボランティア団体「ガマフヤー(ガマを掘る人)」を結成し、「どうか人間の骨らしく扱ってほしい」との新聞投書を行ない、ホームレスや生活困窮者を優先的に雇用する非営利事業を立ち上げたという。

「不発弾が「爆薬を孕んだ物体」ならば、骨は「沈黙の意味を孕んだ物体」と言えよう。骨は語らない。だが黙して語る。問われているのは、沈黙の言葉を聴き取る耳である。
沖縄は骨埋まる島、骨眠る島である。日々膨らんでいく開発現場だけではなく、戦後六五年も経つというのに居座り続ける普天間飛行場や嘉手納飛行場の滑走路の下にも多くの骨が埋まっていることは、当時を知る人たちによってつとに指摘されているところである。不発弾がこの島のクチャやマージ(いずれも沖縄の土壌)の中に埋まっているように、沖縄戦で亡くなった死者の骨も、暗い土中で発見され帰還することを待ち続けている。」(仲里:216.)

故郷に帰ることを待ち続けている骨は、沖縄はもとより東アジアに「日の丸」が掲げられた全ての土地に眠っている。そしてそれとは反対に、東アジアの各地から日本にもたらされた様々な文化財も、大学の収蔵庫や美術館の展示ケースの中で、「帰還することを待ち続けている。」

「日本の戦後は骨たちが語りかける<メメント・モリ>の声を封印してきた、封印することによって経済を謳歌してきた、といっても過言ではない。骨とまともに向き合うことがなかったのだ。死を思い、骨の声を聞くことを回避してきたことが、戦争責任を不在にし、アジアに対する侵略と植民地主義の記憶を封印してきたことに繋がっている。アジアへの侵略と植民地主義の最後の環であった、沖縄の土深く眠り続け、いまだ収骨されることのない骨たち、収骨されても帰還できない骨たちは、この国の戦後のドメスティックなありかたを逆説的に明らかにしている。」(217-8.)

2009年に行われた沖縄県真嘉比での発掘調査。
戦争遺跡保存全国シンポジウム南風原大会の第1分科会にて「2009那覇市真嘉比(まかび)における遺骨収集事業について」(具志堅隆松)として発表された。最新の『考古学研究』では、「大会参加記」の筆者によって「印象に残った報告」として紹介されている(岩崎 紅美2010「第14回戦争遺跡保存全国シンポジウム南風原大会参加記」:1.)。
しかし「日本考古学」総体としては、こうした調査をどのように受け止めたのだろうか?
2009年の「日本考古学」全体を振り返る「動向」あるいは「回顧と展望」といったレヴューにおいて、誰がどのように言及しただろうか?
『考古学ジャーナル』や『史学雑誌』よりもはるかに発行部数が多い月刊誌に掲載された記事である。前回の記事【2010-10-14】で引用した「近世以降の遺跡」に対して「地域住民の関心も概して高い」とか「国民的な関心が高まりつつある」といった文言が、ある空しさをもって響いてくる。


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0