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緊急声明 [雑]

2010年6月6日
日本考古学協会蔵書の海外放出に反対する(声明)

私たちは、考古学協会蔵書の英国セインズベリー日本芸術研究所への寄贈に反対します。
私たちはこれまで報告書や考古学関連図書を、日本考古学協会が掲げる考古学研究の深化と普及・啓発の理念に同意して、協会に善意で無償供与してきました。当然、国内において活用して欲しいという前提であります。それに応えることは、考古学の調査・研究を牽引する日本考古学協会の責務であると考えます。
その考古学協会が数万点の報告書および関連図書を、ほとんどの研究者が閲覧しがたい海外に押しやろうとしています。日本考古学協会そのものの存在意義が問われる行為でありましょう。

私たちは、理事会議決を無効と考えます。したがって、それにもとづいて交わされたセインズベリー日本芸術研究所との「覚書」も、もとより成立しないと理解しています。
国外への寄贈はまったくの想定外です。2009年度総会で理事会に図書の扱いを一任した時に決められた「日本考古学協会所蔵図書寄贈先募集要項」の文面は、海外を想起させるものではなく、しかも海外放出も想定内にあることに理事会は言及していません。総会後の状況の変化についても、理事会はその説明を充分に行なったでしょうか。全く行なっていません。
協会所蔵図書は会員の付託を受けた日本考古学協会の学問的資産ともいうべきものであり、その措置が2009 年度総会時の前提とは異なるものである以上、以後の取り扱いについては、理事会の承認事項ではなく、改めて総会での議決に委ねられなければならないものです。2010年3月までに決着を付けるというスケジュールも、必然的に白紙に戻されるべきものです。
この1 年間の状況を総会で報告し、今後の対応について議論し、賛否を会員に問うてこそ民主的な手続きと言えるでしょう。
どの近代国家でも、その国固有の文化財を国外に出すことに制約を設けています。
協会に蓄積された図書は、敗戦後日本考古学の歩みをたどることができるかけがえのない“原本”群であり、それ自体が文化財です。安易に文化財を海外放出させるべきではありません。国家的損失を生じさせかねない今回の動きは、独り理事会の判断で決せられるものではないのであります。
セインズベリー日本芸術研究所では資料をデータベース化し、インターネットでの活用を検討していると言われています。驚くべきことに理事会は、これで日本考古学への世界的理解が進むと考えているようです。しかし、デジタル化するならば、他力本願ではなく日本国内で実行すべきではないでしょうか。海外に向けても、日本国内から情報発信してこそ真の国際化と言えるのであり、それこそが日本考古学協会の使命でありましょう。
以上の認識から私たちは、日本考古学協会理事会の議決は手続き的に無効であり、日本における文化財保護の観点からも、協会蔵書の海外放出に反対し、再考を求めます。

考古学協会蔵書の海外放出に反対する有志(五十音順)
飯村 均・五十嵐 彰・植木 武・小川 望・大竹 幸恵・大塚 初重・梶原 勝・上敷領 久・河合 英夫・
桐生 直彦・黒尾 和久・小林 謙一・佐古 和枝・十菱 駿武・武川 夏樹・田中 信・戸田 哲也・中山 真治・新里 康・橋口 定志・橋本 久和・橋本 真紀夫・長谷川 渉・畑 大介・廣田 吉三郎・松崎 元樹・松本 富雄・馬淵 和雄・三瓶 裕司・宮瀧 交二・八重樫 忠郎


タグ:協会図書
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伊皿木蟻化(五十嵐彰)

イギリスに対しては、エジプトからもギリシャからも文化財返還の要求が出されていますが、その当のイギリスに対して国民共有の財産である埋蔵文化財を記録保存した膨大な資料を放出しようというのだから・・・
文字通り、今が最後のチャンスでしょう。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2010-06-08 21:35) 

安斎正人

私は協会員ではありませんが、考古学に従事する者として、上記の声明を全面的に支持します。
by 安斎正人 (2010-06-09 13:41) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

応答ありがとうございます。

「一般社団法人日本考古学協会倫理要綱
2.研究者として
(5)資料・記録の保存・管理・公開
日本考古学協会会員は、調査によって得られた資料・記録が人類共有の財産であることを認識し、これらを適正に保存・管理するとともに、公開に努める。」

どう見ても、言っていることとやっていることが矛盾しているように思えるのは、私だけでしょうか?
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2010-06-10 07:16) 

硝子

会員の末席を汚す者として、単純に常軌を逸した行為と考え、署名させていただきました。愛国心云々以前の問題だと思います。一方で、増え続ける報告書の保管場所をどうするかという問題は依然として残されますが、どのように解決すべきなのでしょうか。
by 硝子 (2010-06-13 19:22) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

まず協会年間予算配分を根本的に考え直し、所蔵図書の基礎整理(書誌データの入力・バーコードの添付など)を行なう人的措置を行なう。次にOPACなどの検索ネットに搭載し、会員始め一般市民の方々を含めた利用上の利便性を高める。以上は5~6年の中期的展望のもとで実施する必要があろうかと思います。この間に個人・組織・企業など広く社会に呼びかけ、ふさわしい収蔵場所および金銭的援助(ネーミング・ライツを含む)を求め、恒久的な利用スペースの確保に努める。そのためにも協会内部をはじめ、外部有識者を含めた「協会所蔵図書有効利用検討委員会」を設置し、議論の経緯など極力情報公開に努め、意思決定の公開性を高める。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2010-06-13 19:40) 

硝子

得心いたしました。
by 硝子 (2010-06-14 23:07) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

当該案件を議論する場を求める署名用紙(PDF)がウェブ(公開グループ)http://groups.google.co.jp/group/kyokai-zosyo
に掲載されました。
ご賛同いただける方は、プリントした署名用紙を、6月20日頃を目途に記載の集約先に郵送していただけると助かります。
宜しくお願いします。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2010-06-15 12:15) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

ご報告です。
皆さまにご協力いただいた署名を第1次集約分として1,626筆(内:日本考古学協会会員427筆)を6月26日開催の協会理事会に間に合わせるべく、6月25日協会事務局に提出いたしました。こうした多くの方々の思いを協会執行部が真摯に受け止め、拙速な判断をいったん白紙に戻し、改めて多くの人々の思いに応える最善の方策に至れるよう暫く状況を見守ることにいたします。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2010-06-29 19:31) 

安斎正人

この欄への私のコメントを知った教会関係者から,この問題に関する最近数年間の,協会内での対応に関する詳細な情報と,再考を促すメールををいただききました。声明文を読んだだけで「全面支持」を表明したことは,軽率のそしりを免れられないかもしれない。そこで,両者を読み比べたうえで,「もし私が協会員であるなら,協会の今回の決定に従うのが筋かもしれない。しかし,一人の日本の考古学者としては,将来に禍根を残す決定だと考える。反対声明に署名した人々の行動に注意しながら,私も考え続けるつもりです」,といった意味の返信をしました。
報告まで。
by 安斎正人 (2010-07-14 14:32) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

海外放出に反対する署名は最終総計で1892筆(内協会員491、協会員以外1401)となりました。こうした多くの現状に対する反対の声を受けて、考古学協会理事会としての公式意見が昨日付けで協会ウェブに公開されました。今までの詳細な経緯などが記されていますが、なぜ募集期間が2009年5月の「募集要項」制定から10月までのわずか半年しかなかったのか、わずか半年の募集期間で国内機関の応募がなく海外機関の応募しかないという事態を受けて、なぜ更に応募期間を延長するとか、一括寄贈という条件を再検討するといった柔軟な対応がそのときになされなかったのかという疑問は解消しません。当初の規定方針をただ闇雲に邁進するのみといった硬直な姿勢のみが印象づけられます。応募された海外機関がいかに信頼できるかといった事柄も述べられていますが、もしそうならば今一度当該機関と真摯に話し合い、協会構成メンバーの少なからぬ割合の人びとが反対の意思を表明していることを鑑み、新たな対応策を講じるべきではないでしょうか。そこでは、問題となっている図書の数量が「56,214冊」と初めて具体的な冊数も明らかにされましたが、同時に協会として今まで全体の目録すら作成されていなかったこと、すなわちこれから「2~3年かかる作業」をセインズベリーの手で「日本国内で行う予定」であることが記されています。「56,214冊」の書籍を地球の裏側まで搬送する費用がどれぐらいかかるか予想もできませんが、同じような費用と協会が「蔵書公開施設」を立ち上げるために今まで用意してきた費用を合資することで、国内にて目録を作成する作業スペースおよび蔵書を公開するスペースを確保することは充分に可能ではないかと思われます。そこには6月13日付けの本記事コメントでも記したようにネーミング・ライツも含めてセインズベリーと協会の合資による「セインズベリー記念考古学情報センター」なる組織を立ち上げることもまた充分可能ではないだろうかと思うのです。果たしてこうした検討がどれほどなされたのか、という「経緯」についても、「一括寄贈について」という昨日公開された理事会文書からは読み取れないのです。今回の新たな事態を受けて、寄贈契約締結を少なくとも1年延期するといった緊急措置が採られてしかるべきだと思います。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2010-07-14 22:31) 

maillot

協会員ではなく、協会に報告書を寄贈してきた地方自治体の職員です。

今回の件について疑問に思ったのは、協会として資料収集の対象外とされているのは遺跡発掘調査報告書だけで、学術書や研究会資料はまだ収集の対象にとなっていますよね。

収集の対象外となった図書についての取り扱いについては、活用する団体があればそちらで活用していただくのが最適かとは思います(収集の対象外にすることに疑問は感じますが、協会としての決定であれば、提供側は送らなくなるだけのハナシ)

ただ、今回の寄贈については、収集対象としている図書も「協会所蔵図書の一括寄贈」の対象になっているのかどうかが協会のHPを見てもよくわかりませんでした。収集対象としている蔵書まで寄贈するということになると、部外者ではありますが、適切なのか、という思いは感じます。
by maillot (2010-07-23 02:55) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

日本考古学協会が現在所蔵している図書類については、収集対象外(報告書)も収集対象(それ以外)も区別なしに「一括」して寄贈先に寄贈されるようです。問題は、これからの取り扱いです。今までのように総会の図書交換会会場で担当者が台車を押しながら出品文献を網羅的に収集するということはなくなるでしょう。今後は報告書や雑誌・図書類の発行者が個別に寄贈先に送付するか、あるいは協会宛に送付し、協会が着払いで寄贈先に転送するということになるそうです。当然のことながら、今後の文献収集量、収集率(全ての考古学関連図書に占める収集図書の割合)は格段に低下することが予測されます。送付先が海外となれば、なおさらです。すなわち協会所蔵図書を核として全ての日本考古学に関連する図書・報告書を完備する考古資料センター的な施設(そこに行けばたいていどんなものでも見ることができるといった場所)の実現は不可能となる(2010年以降の収集図書に大きな欠落が生じる)、なりかけているということです。もちろん全国各地の地方自治体あるいは関連財団法人などが従来の報告書送付リストに新たに特定の海外機関を付け加えるという行政措置が全国規模でなされるのなら、また話しは別ですが。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2010-07-23 12:23) 

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