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侵略考古学 [総論]

「第二次大戦後、朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮という)と大韓民国(以下韓国という)が成立すると、日本の古蹟調査に対する厳しい批判が北朝鮮と韓国の研究者から提起されたが、日本人考古学者からはそれに対する回答はほとんど出ていない。批判は主に調査組織、総督府の植民地政策、日本人の歴史観に対するものであり、考古学研究それ自体ではないため日本人研究者からは答えにくい面もあったと想像する。」(早乙女 雅博2010「植民地期の朝鮮考古学」『考古学ジャーナル』第596号 特集 朝鮮考古学史:3.)

調査組織や時の政策あるいは研究者の歴史観は、「考古学研究それ自体」から切り離すことができるのだろうか? 
「想像する」のではなく、100周年という節目の年にこそ、たとえ「答えにく」かろうと専門誌の特集号において「答え」る努力がなされるべきではないだろうか。

「研究及び研究をとりまく外的諸条件からする「必然」の道が、以上の如くであったとすれば、他方、研究者の主体的思想はどこにあったのだろうか。学問を現実から引きはなし、現代史にかかわりない態度で、現実に関係のないことを研究するのが、研究者の正しい在り方である、つまり、学問のための学問こそ、その科学性を保証するただ一つの態度である、と考える当時の学問一般の考え方が、考古学者をも支配し、また考古学者をして、みずからの現実逃避の合理化の手段たらしめていたことは明らかである。」(近藤義郎1964「戦後日本考古学の反省と課題」『日本考古学の諸問題』:314.)

ここで「当時の学問一般の考え方」とされている「当時」とは、今から半世紀以上前の戦時期を指すが、その「考え方」が2010年の現在に至るまで継続していることが確認できる。

「近藤が提起した「日本考古学の反省と課題」は、決して現行の日本領国内における考古学に関わる諸問題に閉じていたわけではない。近藤論文によって、考古学者の「戦争責任論」の構築という学史研究の「課題」が、後学の戦後責任として託されたと理解するべきである。なおかつ、その「課題」は現在においてもまともに学史研究として取り上げられておらず、1970年代以降の学史研究のあゆみを厳しく省みる必要がある。そうでなくとも、近代日本の植民地主義や侵略戦争をどう総括したのか、当事者の歴史認識を問わずして、「紀元節問題」「教科書問題」の本質に、日本人考古学者が接近することは、おそらく永遠に不可能だからである。」(黒尾和久2007「日本考古学史研究の課題」『考古学という現代史』:77.)

ジャーナル特集号を通読して、「自らの立ち位置を明瞭にしない学史著述の姿勢にこそ、戦後封印してきた強い歴史認識が滲み出ている」(同:90.)という指摘がそのまま該当することをも確認する。

「かくして、本書の議論から最終的に導かれるのは、学問(科学)をめぐる政治性に自覚的であることがどんな研究者にも必要だという至極当たり前の主張である。我々はみな、自らを取り巻く大小の政治状況のなかで思考しており、そこで生み出される理論と実践は、すべて何らかの意味で政治性を帯びている。そうしたなかで、研究者に求められるのは、自らの知的営みがいかなる状況のなかで行なわれているかに、常に自覚的であり続ける姿勢だろう。だが、実際には、自分の研究を支える場の政治に対して意識的であること、これは口でいうほどたやすいことではない。本書のような学問(科学)の自己反省に関わる試みも含めて、学問という営みを可能にする条件についての思想をやめぬことの大切さ、それこそが本書のささやかな結論にほかならない。」(板野 徹2005『帝国日本と人類学者』:505.)

2010年という年に考古学という領域において、特集「朝鮮考古学史」が組まれたということ、その内容が示す「政治性」に意識的であることが全ての日本人考古学者に求められている。

「日本民衆は、なぜ日本の他民族、他国侵略を阻止できなかったのか。日本民衆は、なぜ、アイヌやウィルタの大地、ウチナー、台湾、朝鮮、中国東北部に侵入し、現地の民衆に敵対したのか。日本民衆はなぜ、兵士、警官、官吏、農民……として、台湾、サハリン、朝鮮、中国東北部の民衆を抑圧しつづけたのか。」(金 静美1989「朝鮮独立・反差別・反天皇制」『思想』第786号:87.)

日本人考古学者は、なぜ朝鮮に侵入し、現地の民衆に敵対しつつ、発掘調査を行なったのか。
そこで得られた出土遺物・記録類は、今どこに、どのような状態にあるのか。
その答えを、私たち一人ひとりが探し求めなければならない。


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