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2010a「統一<場‐もの>論序説」 [拙文自評]

五十嵐 2010a 「統一<場‐もの>論序説」『季刊 東北学』第22号:146-159.

「現代物理学では、物質および物質間の相互作用を支配する実体は同質のものであるとみなし、ともに素粒子としてとらえることができる。それらはどちらも場の理論によって記述される。すべての場の存在の必然性と、それらの間の相互作用を統一的観点から演繹しようとする試みを統一場理論、あるいは統一理論という。」(Yahoo! 百科事典「統一場理論」より)

考古学という学問において用いられている主要な方法である「型式概念」と「接合事象」について、考古学的な<場>である「加重複」(重なり合い)と「減重複」(切り合い)の中に位置づけ、「それらの間の相互作用を統一的観点から演繹しよう」と試みたものである。

接合という事象の意味を求める作業に端を発し、実験痕跡、痕跡連鎖、考古時間と発展してきた一連の痕跡研究(第2考古学において大きな部分を占める領域)に対する総括という意味合いを有し、かつ新たな体系性を目指す始点となるような文章と位置づけておく。
そのため以下のような自文引用によって、自らの中で<場‐もの>論が浮上してくる「経緯」を示すこととなった。

「人がなした行為をものに記された痕跡を通じて解明する考古学の根底的な課題は、ものと場に刻まれた製作と廃棄あるいは使用という時間的空間的諸関係を読み解くことである。」(五十嵐2003b「砂川F/A問題」:283.)

「考古学とは、「場」における「もの」の存在状況、<場‐もの関係>を明らかにする営為である。」(五十嵐2006d「遺構論、そして考古時間論」:80.)

最近になって、以下のような文章とも呼応していることを発見した。

「意味=メッセージ+コンテクスト
これは次のように書き換えられる。
意味=モノ/スタイル+場/景観」(ギャンブル(田村訳)2004『入門現代考古学』:203.)

原文は、
from
 meaning = message + context
to
 meaning = object / style + place / landscape
である。

どういうことなのだろうか?
例えば、以下はそれまで単純に遺構出土土器型式によって遺構の時期区分を行なってきた日本考古学の風潮に対して、大きな「一石」を投じた論考の一節である。

「たとえば、模式的に例を示すと、同一様相の土器群を出土するA竪穴とB竪穴が、接近して検出されたとしよう。ところが、A竪穴の土器は床面上に遺存している。一方B竪穴では覆土中にのみ出土し、床面には全く出土遺物が無い。とすれば同一時間面は、A竪穴では床面に、B竪穴では覆土中に置かれることになり、B竪穴の廃絶時期は相対的に古いと判断されよう。」(土井義夫・渋江芳浩1987「平安時代の居住形態」『物質文化』第49号:2.)

本稿での類別に応じて言い換えれば、<場>の在り方としては「離散」、<場>における<もの>相互の在り方としては「層中‐面上」関係、すなわち「(6)離散単位間における層中‐面上関係」における同型式関係である。「同時性」を示す接合関係ならまだしも、「同一様相の土器群」なる同型式関係による「同時期性」によって覆土形成時間より短い「同一時間面」なるものを示すことには無理があるように思われる。廃棄の同時性と製作の同時性は異なるという「鈴木‐林テーゼ」を別にしても。

図らずもエピグラフとして掲げた近藤義郎氏に捧げるオマージュという意味合いを有することとなった。


タグ:痕跡
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