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山2009「遺跡化の論理」 [論文時評]

山 泰幸 2009 「遺跡化の論理 -歴史のリアリティをめぐって-」『文化遺産と現代』同成社:77-107.

驚いた。違った方向から同じような場所に到達している人がいるのを知って。
しかし「同じような場所」であり「同じ場所」ではないことも、一読すぐ分かる。

「本稿では、歴史がリアルな存在として姿を現すための、その身体を借りる場所やモノを「遺跡」とよぶことにしたい。その理由は、遺跡が、石器や土器など、それが出土した場所から独立してモノとして単体で存在し得る遺物と、住居跡や古墳などそれが存在している場所と切り離すことがむずかしい遺構とに分けられ、その総称とされているからである。つまり、遺跡はモノ性と場所性から構成される概念ということができる。しかし、通常は、場所性に重点が置かれている。そのため、しばしば遺物遺跡と並称される。現在、日常的に使用されている遺跡という言葉は、この考古学的遺跡(Archaeological site)の意で用いられているが、本稿では、考古学的な遺跡に限らず、広く、歴史が宿る場所やモノを「遺跡」という言葉で把握することにしたい。そして、歴史が遺跡に宿ることを「遺跡化」とよぶことにしたい。」(78.)

「歴史が宿る場所やモノ」の「歴史」とはどのような「歴史」なのか(先史中心なのか、それとも近現代を含むのか)、すなわち「宿る」とはどのような「宿り方」なのかが問われているわけである。

「遺跡が帯びている過去性は、遺跡の根本的な属性といえる。したがって、われわれが、遺跡を見学することによって、遠い過去の時代を思い描いたり、遺跡が、過去の時代の解明を目的とする考古学の対象とされることは、至極自然なことである。
しかし、こうした遺跡のとらえ方は、遺跡が属している二つの時制のうち、その過去性にのみ焦点を当てたにすぎないことになる。無数の遺跡をめぐってなされてきた、膨大な考古学的な研究は、その意味で、遺跡の時制に関していえば、その半面に関する研究ということになる。とするならば、それに匹敵するだけの、あるいはそれ以上の、残り半分の広大な領域が残されていることになる。」(80-81.)

こんなところで、第2考古学に関する説明を読むことになるとは。
過去を語る今まで「なされてきた、膨大な考古学的な研究」すなわち第1考古学に対する、「残り半分の広大な領域」を対象とする第2考古学。

「考古資料を記録する、過去を書き記すということは、現在の見方で見えるものを特定の仕方で取り上げ、提示するということである。<第2考古学>を主題とする研究は、考古資料が記録される過程<変換1>を明らかにすることで、考古資料の特性を明らかにする。さらに考古誌の構成を分析する過程<変換2>を通じて、考古記録が「テクスト化される過程」が明らかになる。」(五十嵐2004d「考古記録」:125.)

そして遺跡化である。

「一般に「遺跡を発掘する」とか、「遺跡が発見される」とかいった表現がある。こうした表現が前提にしているのは、発見される以前から、あるいは発掘される以前から、そこに遺跡はあったとする考え方である。「眠っていた遺跡を発見する」というような表現が可能なのも、それゆえである。しかし、ほんとうに、以前からそこに遺跡はあったのだろうか。むしろ、実際は、見出されたなんらかの過去の出来事の痕跡が、遺跡と見なされるようになったのではないだろうか。「遺跡があった」のではなく、「遺跡になった」のではないだろうか。」(100.)

「私たちが現在<遺跡>として認識している概念は、二重の<遺跡>化作用によって構築されている。第1は従来「遺跡形成」(五十嵐1999)と呼ばれてきた事象であり、当事者による大地の痕跡化によって学問対象としての<遺跡>が生じる。第2に私たちの価値観に基づく大地の分節化という<遺跡>化作用によって、「包蔵地」という名の区切られた<遺跡>概念が充当されていく。」(五十嵐2007a「<遺跡>問題」:251.)

なぜこうした当たり前とも思われる視点が、考古学社会の中から提出されないのだろうか。

「通常は、考古学という学問では、このような遺跡化の論理は見えないようになっている。遺跡が土のなかにあるのではなく、自分たちの知識や技術がつくり出すものであるとしたら、学問的な客観性が危ぶまれることになるため、意識的・無意識的に隠蔽されているのである。それが可能なのは、考古学といった学術的言語が支配的な力をもっているからである。」(102.)

「<遺跡>問題とは、何か? それは、<遺跡>とは何かという本質的な問題に目を向けることなく隠蔽している体質をいう。」(五十嵐2007a:252.)

偶然にせよ<遺跡>問題が、こうして社会学的な探求課題として提示された訳である。
提示された考古学サイドは、いったいどのような対応を見せるのだろうか。


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コメント 2

硝子

明けましておめでとうございます。
ご無沙汰しております。
いつも「考古学」のコアな部分からずれたことばかりで申し訳ないのですが、考古学とはまったく関係のない愛読雑誌で伊皿木様をお見かけし、喫驚して思わずコメントを書いてしまった次第です。
「内側円形出っ張り土器」…未だ不明なのでしょうか。それとも「釣り」?
しかし、2010年におけるサブカル系雑誌でも、発掘現場=「ロマン最前線」というフレーズは有効なのですね。
by 硝子 (2010-01-10 18:44) 

五十嵐彰(伊皿木蟻化)

おおぅ~、さすがに渉猟範囲が幅広い「硝子」さん、
実は来跡3日前に作業員の方から急遽拝借した「零の箱式」なるDVDで、ギャグを3つまで覚えたものの、当日はそのうちの一つしか披露できず、ましてや第2考古学や<遺跡>問題に関する説明を行なう余裕などとてもなく、御覧の通りお恥ずかしい次第です。
ということで、本年も引き続きご指導お願いいたします(プログレ方面&謎の土器を含む)。
by 五十嵐彰(伊皿木蟻化) (2010-01-10 20:54) 

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