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埋蔵と包蔵はどう違うのか(下) [遺跡問題]

「九十二条第一項では埋蔵文化財について、「土地に埋蔵されている文化財(以下、埋蔵文化財という)」と記し、分類をせず包括的に扱っている。土木工事に伴う届出を規定している九十三条第一項では、「貝づか、古墳その他埋蔵文化財を包蔵する土地」と若干の例示を加えている。」(高橋一夫2007「埋蔵文化財としての遺跡」『考古学ハンドブック』:34.)

こうした文章で読者に伝えようと意図していることは、何なのだろうか。
「埋蔵文化財」すなわち「土地に埋蔵されている文化財」である(92条)。
「包蔵地」すなわち「埋蔵文化財を包蔵する土地」である(93条)。
両者を掛け合わせると
「包蔵地」すなわち「土地に埋蔵されている文化財を包蔵する土地」である。
まず「土地」があって次に「埋蔵」されている「文化財」があってさらにこれを「包蔵」する「土地」がある。
上から読んでも、下から読んでもといった「山本山」みたいな文章である。
そして判らないのは「埋蔵」と「包蔵」の違いである。

「埋蔵」:(主として地下に)うずもれかくれること。「―文化財」
「包蔵」:つつみかくすこと。(広辞苑)

「うずもれる」か「つつむ」か、これではなぞなぞの世界である。
単純に「文化財を埋蔵する土地」を「埋蔵地」と言えば済んだ話しだったはずなのだが。

法律の世界そしてそこに依拠する行政用語は、何と奥深いのだろう。というか訳が分からない。
そこで思い起こすのが、「とんち噺」である。
「キノコ」と言えば「シイタケ」、「シイタケ」と言えば「キノコ」といって、大量の「キノコ」の上納を「木の子」すなわち「木の苗」でもって応じた吉四六さんの「キノコ問答」の世界である。

しかしことは、私たちの日々の業務に関わる、そして考古学という学問の根幹に関わる事柄である。
「埋蔵文化財包蔵地」という埋蔵・包蔵問題はともかく、「遺跡」と「包蔵地」の識別は、これからの「日本考古学」を遂行するにあたり避けては通れない課題である。単に行政的な認知の事前と事後といった区分で済む話しでないことは明瞭である。

「縦軸を遺跡の種類、横軸を時間軸とすると、時代とともに人間の活動領域は拡大するので、当然のことながら遺跡の種類は増加し、多様化していく。」(高橋一夫2007:34.)
そして縦軸に種類として「集落、墓、生産、祭祀・信仰、役所、交通・交易、城館・戦争、包含層」の8種類、横軸に時代として「旧石器、縄文、弥生、古墳、古代、中世、近世、近・現代」の8種類のクロス表が「遺跡の分類表」として掲げられている。
「近・現代」の例えば「東京」という都市において、掲げられた8種類の「遺跡」をどのように区分していくのか、これは既におよそ半世紀前に酒詰仲男氏が頭を悩ませた問題である(【09-07-30】参照)。

現在の私たちにとっては、こうした「遺跡観」が円筒モデルに基づく行政的な「遺跡」すなわち「包蔵地」とどのように整合しているのか、矛盾しているとしたら何故そのことが問題とならないのかという点について考えを巡らせることが求められている。
「遺跡台帳は、周知の遺跡を一覧できるようにする。遺跡台帳の基本は、作成目的や使い方によって大きく異なるが、所在地や遺跡の性格を記載することが一般的である。」(宮尾 亨2007「遺跡台帳(遺跡地名表)」『考古学ハンドブック』:39.)

残念なことであるが、重要なことは理解されるまで幾度も繰り返し述べなければならない。
「まずは、考古学的「遺跡」(学問としての「遺跡」概念)と埋文行政的「遺跡」(行政システムとしての「遺跡」概念)を区別していく必要性があろう。すなわち前者については考古学の研究対象としての「遺跡」という用語を、そして後者については埋蔵文化財行政の保護対象としての「埋蔵文化財包蔵地」という用語を当て、両者を明確に使い分けていくことである。」(五十嵐2004b「近現代考古学認識論」:341.)


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