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埋蔵と包蔵はどう違うのか(上) [遺跡問題]

「埋蔵文化財は、大局すれば遺跡と遺物とに分けられる。
遺跡は、過去の人々の痕跡をなしている土地および土地と一体をなしている諸地物を指し、遺物は、過去の人々の所産のうち通常土地から切り離して、いわば動産として扱われるものである。しかし、遺跡と遺物の区分はそれほど本来的なものではなく、遺跡の中には遺物がいっしょに存在しているのが通常であるし、遺跡と考えられるものも調査による解体等によって個々の遺物に姿や性質を変えてしまうものもある。
通常の用法としての「遺跡」という言葉は、これらの文化財(法第二条にいう遺跡や有形文化財)が所在している土地を指して使われることが多いのであるが、文化財保護法の埋蔵文化財の章においては、「遺跡」は、むしろ通常の用法における「遺構」に近いものを指している。」(和田勝彦1979「文化財保護制度概説」『文化財保護の実務(上)』柏書房:第三 文化財保護法 第五章 埋蔵文化財 一 埋蔵文化財およびその保護制度の沿革 (一)埋蔵文化財の性格:137.)

「文化財保護法の埋蔵文化財の章においては、「遺跡」は、むしろ通常の用法における「遺構」に近いものを指している」という文章のみを切り取って読めば「ギョッ」とするが(文化財保護法の「遺跡」には「遺物」は含まれないのか?とか)、全体を読めば何のことはない、「埋蔵文化財」は土地と一体である「遺跡」と動産である「遺物」からなり、この「遺跡」を「通常の用法における「遺構」」に置き換えれば、埋蔵文化財は「遺物」と「遺構」からなり、これは通常の用法における「遺跡」に相当する訳である。何やらトンチ話しのようである。

「埋蔵文化財の所在することが新たに確認された場合、多くは後述の遺跡の発見として取り扱われるのであるが、このような新発見の埋蔵文化財包蔵地については、遺跡の発見として市町村または都道府県によって確認され、その台帳、地図等の資料に登載され、一般国民が知りうる状態となった時点で周知の埋蔵文化財包蔵地となるものとするのが、最も妥当であると考えられる。」(148.)

だから「遺跡」の語は、その多くが「発見」という単語と対になって用いられている。「遺跡」というものはもともと地中に存在していて何かが契機となって「発見」され、そのことが「地方公共団体の文化財担当部局においてその所在が確認され、資料等として把握されればその時点からその所在地は周知の埋蔵文化財包蔵地として取り扱う」(160.)ことになるとされている。
「遺跡」と「包蔵地」の違いは、行政によって知られていない(未知の存在)かそれとも知られている(既知の存在)かの違いでしかない。
同じものを指して、知られていないのならば「遺跡」、知られているならば「包蔵地」と呼び分けるとするのなら、知られている「遺跡」(周知の遺跡)というのは語義矛盾だし、「報告書」と呼び習わされている刊行物の表題に「なんとか遺跡」とするのも行政上は如何なものかということになる。

そして実際には厳密な使い分けなど困難極まりなく、融通無碍に使い回されているのが現状ではないのか。

「「埋蔵文化財包蔵地」は、文字通り、文化財を埋蔵する土地のことであり、これはまた、考古学などで学ぶ「遺跡」とほぼ同様のものを指す。「遺跡」とあわせて「遺物」という言葉もよく耳にするが、一般的に遺跡とは、過去の人間活動の痕跡を留めた土地を指し、遺物とは、過去の人間活動の所産である道具・器物等の動産を指すとされている。
しかし、この両者の区別はさほど本来的なものではない。遺跡の中には、当然、遺物が一体的に埋もれているのが普通であるから、「遺跡」という言葉の中に「遺物」の意味も含まれるとする意見もある。この混乱を解決する方策として、「遺構」という言葉が使われることが多い。すなわち、不動産に類するものを「遺構」、動産に類するものを「遺物」と呼び分け、この両者の合わさったものを「遺跡」と呼ぶのである。
ともあれ「遺跡」と「埋蔵文化財包蔵地」は、ほぼ同じ意味として用いられているのが一般的であり、この「遺跡」とは、「遺構」と「遺物」とによって構成されるものと理解しておいて大きな誤りはない。」(建設省建設経済局事業調整官室/文化庁文化財保護部記念物課監修1997『公共事業と埋蔵文化財』:144.)

「監修」というからには、それ相応の責任を負う文章と受け止められる。
冒頭引用した和田1979を実質的により実態に合わせるべく修正したものなのだろう。


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