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遺物論 [痕跡研究]

「発掘という行為が意識的になされるようになって以来、いったいどれだけの種類の遺構が検出されてきただろうか。個別の遺構に関する議論は、確かに数多くなされてきた。あるいは遺物概念と対比させた遺構に関する概論的な記述も散見される。しかし、その狭間になされなければならない議論、例えばある時代にはどのような種類の遺構があり、それらはどのような性格を有するのか、あるいは私達が遺構として認識している痕跡は、時代を通じてどのような共通した性格を有しているのか、といった点については、殆ど議論が及んでいない。」(五十嵐2006「遺構論、そして考古時間論」:64.)

ということで、「遺構論」と題して「遺構」とは何かについて論じる機会があった。
ならば、当然「遺物」とは何かを論じる「遺物論」についても、考えを巡らせる必要があるだろう。

「個別の遺物に関する議論は、確かに数多くなされてきた。しかし、その狭間になされなければならない議論」があるのではないか、ということ。
「私たちが遺物として認識しているものは、どのような性格を有しているのか」ということ。

それでは、現在流通している一般的な「遺物認識」とはどのようなものであろうか。

「遺物を分類するときに最初に注目するのは材質である。材質が道具の機能を反映しているからである。岩石や鉱物をそのまま利用する石器、粘土や鉱物を焼成する陶器、磁器、その他の土製品、冶金技術を伴う金属器などの分類である。」(宮尾 亨2007「遺物総論1 観察と提示・分類」『考古学ハンドブック』:93.)
そして石器、土器、木器、繊維、骨角器、金属器、ガラスと材質別の説明がなされることになる。
あるいは
「第1に人間が加工したり、製作したもの」「第2には、運搬交易など人間が関与しながら加工その他の痕跡はなく、人工物とはいいがたい動植物や鉱物、あるいは家畜や栽培植物の遺存体、動植物性食物の残滓など」「落葉や枯枝のような樹木・草本の部分や獣類から昆虫類にいたる各種動物の遺存体など」といった区分も提示されている(田中 琢2002「遺物」『日本考古学事典』:47.)

以下では、こうした従来の遺物区分、遺物分類とは異なる新たな区分、分類を考えてみたい。
(ベースは、五十嵐2002c「石器資料の基礎的認識と最小個体数(MNI)」において少し述べた。)

1.製作痕跡遺物:私たちがイメージする「遺物」の多くが「製作痕跡遺物」である。なぜなら、私たちは何かをしようとある欲求に基づいて「ものを作り、使う」のだが、その「もの」が遺物として認識されるためには、「製作痕跡」(加工痕)によって形作られたその形状・形態によるからである。
こうした製作痕跡遺物にも2種類ある。
1a:製作痕跡遺物(主産物) 多くの「遺物」が該当する。
1b:製作痕跡遺物(副産物) 製作痕跡遺物を形作る際に生じる副産物(作り滓)である。代表的なものは、打製石器を製作する際に生じる「剥片」「砕片」類、金属製品を鋳造する際に生じる「鉄滓」あるいは「焼成粘土塊」など。これらの多くは、目的物ではないが故に、一定の形状を呈さず、その形自体に意味を見出すことは困難である。
2.使用痕跡遺物: 自然物をそのまま用いて(加工を施さず)、使用した痕跡(使用痕跡)のみによって「遺物」と認定されるもの。磨石や敲石(ハンマーストーン)、所謂「スレ貝」(土器の内面を磨く際に用いられた貝類)、焼礫(被熱痕跡のある礫)など。
3.自然物利用遺物: 田中2002などがいう単なる「自然遺物」ではなく、製作痕跡も使用痕跡も認められない(自然物をそのまま利用した)が、明らかに道具としてあるいは部材として用いられたもの。それが「遺物」あるいは「部材」として認定される根拠は、その出土状況のみである。例えば、編物石、規則的に配置された礎石、布掘基礎に敷き詰められた玉石など。

1:製作痕跡遺物から2:使用痕跡遺物、そして3:自然物利用遺物の順に、私たちの遺物認識の根拠が推移する。純粋に<もの>の形そのものから、出土状況(諸関係)へと。
私たちの<もの>認識は、<もの>と<場>のバランス具合、両者の綱引きの上に成立している。

「東京都西多摩郡秋多町草花在住の塩野半十郎氏によれば、多摩地方ではかなり一般的に川原石で米俵を編んでおり、これをコマ石とよんでいるという。そして近年八王子付近の古代集落祉の調査に際し、竪穴住居址内からしばしばコマ石が出土するにもかかわらず、加工や使用痕跡がないということで捨てられている、と嘆いておられたことは未だに耳に新しい。」(渡辺 誠 1981 「編み物用錘具としての自然石の研究」『名古屋大学文学部研究論集 史学27』第80号:4.)


タグ:もの 遺物
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