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第2考古学会議・第2回準備会 [セミナー]

2AD準備会#2:2009-02-28
報告:遺跡とは何か? 区切れないものを区切ろうとする思考法を問う。
要旨:なぜ「遺跡」を問題とするのか? それは確固とした実体ある存在と考えられている「遺跡」が、実は私たちの必要性に基づいて制作された人為的なものであるということを明らかにするためである。

もしあらゆる場所が<遺跡>であり、あらゆる開発(土地改変)に対して調査をするとするならば、<遺跡>問題は存在しない。
またあらゆる場所が<遺跡>ではなく、あらゆる開発(土地改変)に対して調査をしないとするならば、<遺跡>問題は存在しない。
ある場所は<遺跡>だから調査をする。しかし他の場所は<遺跡>でないので調査しないとする(せざるを得ない)。故に、ある場所と他の場所を区切る必要性が生じ、<遺跡>問題が発生することになる。

「「遺跡」が誕生する歴史的経緯、現在まで維持されてきた歴史的必然性を明らかにすること。「遺跡」自身の歴史性とは別個の、そして密接に関わる「遺跡」概念の歴史性。
 「遺跡」が生成する現在的経緯、すなわち「遺跡化」の過程・仕組みを明らかにすること。 「遺跡」が「埋文権力」によって配置されているという人為性をあらわにすること。
 「遺跡」イメージの変容(区切れる遺跡から区切れない遺跡へ、島状分布から網状分布へ)。「掘らなければならない場所と掘らなくてもいい場所」という二分論からの脱却。
 「遺跡」イメージの実体性に固執することは、必然的に「先史中心」という偏在性・歪みをあらわにせざるを得ない。「語りえぬもの」、「ト・アペイロン」(無限定なもの)なる相手の実態・本質を直視しなければならない。語りえぬものを語るという私たちの語り。あらゆる場所に存在し、それゆえ何処にも存在しないという存在を相手にしているという意識。」(当日配布資料より)

「真ニ石器時代ノ遺跡ト称スベキハ当事ノ住居、物捨テ場、器具製造場等ノ跡ノミ。仮令一ニ遺物ノ発見有リトモ、是レ当事ノ人民ガ過チテ其携帯品ヲ途上ニ落セシニ由ルカ、将タ後人ガ遺跡ヲ攪乱セシニ由ルカ、判断ヲ下ス事難ク、随テ斯カル地ヲ呼ブニ直チニ遺跡ノ名ヲ以テスルハ決シテ穏当ナル事ト云フベカラズ。看ル人「遺跡表」ノ簡ヲ捨テヽ「遺物発見地名表」ノ繁ヲ取リタルヲ怪ム勿レ。」(東京帝國大學1897『日本石器時代人民遺物発見地名表』)

「本遺跡地図は、昭和47年度に全国遺跡地図の一環として、国庫補助事業で調査した結果を昭和48年度に東京都の単費事業として東京都教育委員会が委託した東京都遺跡分布調査会によってまとめられたものである。」(東京都教育委員会1974『東京都遺跡地図』)

1897年、さらには『同 第五版 追補一』が出版された1930年、さらには酒詰仲男『日本貝塚地名表』が出版された1959年と文化庁の指導の下に全国で統一された「遺跡地図」が作成された1970年代初頭の間、その僅か10年余りの期間の内に、ある認識の断絶、「地層」が存在しているようである。区切られない「地名表」と区切られる「遺跡地図」を分つ分断の線が。(「地名表」の系譜については、斉藤 忠1990「遺跡地名表の沿革について」『日本考古学史の展開』を参照のこと)

「考古学的分析と思想史との間には、相分つ点が数多くある。これから、主要だと思われる四つの相違を明らかにすることを試みよう。すなわち、新しさの指示について、諸矛盾の分析について、比較的記述について、最後に変換の見定めについて。人々が、これらの相違点について、考古学的分析の諸々の特殊性を把握してくれること、および、その記述の可能性をときたま測ってくれることを望んでいる。」(フーコー1981(1969)『知の考古学』:210.) 

「われわれに必要なのは、フーコーの格闘の姿を記憶にとどめ、フーコーの道具箱の分析用具を積極的に利用することである。そして、単なる利用にとどまらず、さらに有効な分析装置に改変して、この日本の現実を分析し、さらに古代から現在までの日本の歴史を、従来のイデオロギーの呪縛から解き放って書き換えるべく、それぞれの場で、知的な努力をかたむけることなのではないだろうか。
繰り返しになるが、フーコーが提示したことは、自らの生き方、自らの人生行路を考え、突き詰めてゆくことが、世界を解釈する道筋へとつながるという確信なのである。どのような学問研究も、実は、一人一人の内面の探求からこそ始まるものなのだ。
自分の内面に踏み込む勇気を出すこと、そこから始めよう。」(桜井哲夫2003『フーコー -知と権力-』講談社:298.)

なお、会の第2部の席上では、先週のブログ記事【2009-02-25】とも関連して、かつて示した「母岩識別における2大前提(1:同一母岩内均質性、2:異母岩間多様性)」(五十嵐2000c「接合」『用語解説 現代考古学の方法と理論Ⅱ』:168.)について、ある考古哲学研究者から「ほぼ完璧」との過分な評を頂き、意を強くした次第である。


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