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山口2006『台所の一万年』 [全方位書評]

山口 昌伴 2006 『台所の一万年 -食べる営みの歴史と未来-』百の知恵双書011、農山漁村文化協会

「この本は日本列島にくり広げられてきた一万年にわたる食べる営みの場所と道具・装備の変遷のドラマを、ごく大づかみにとらえてみようとする試みです。
そんな試みをあえてやったのは、一つには、今なぜキッチンで、こんな食べ方をするようになったのか―その経緯を確かめてみたかったからです。もう一つ、もっと重要なことは、21世紀の100年もこんな食べ方でいいのか、という問いです。」(5.)

「ショーバン・センセー」には、論文時評【05-09-21】においても、ご登場お願いした。

日本列島を舞台にした一万年の壮大なドラマ。
冒頭、尖底土器から鉄鍋、圧力鍋、あるいは羽釜、飯盒、自動炊飯ジャーに至る「台所道具の系統樹」。
あるいは
01火どころ、02可動の火、03焼く道具、04炒・揚具、05煮る道具、06蒸す道具、07飯炊き具、08保存保冷、09砕く道具、10摺る道具、11切る道具、12食事の台、13食器食具、14めしびつ、15湯茶の具、16水使い具、17給水、18屎尿・厨芥といった「台所道具の一万年」が見開き4頁で示された壮大な系統樹。

食べる営みの体系(システム)作業とそのための道具立て
01自然の食べ物を入手する 狩・漁・採・集の道具立て
02a食べ物を増やす◎動物篇 牧畜・飼育・養殖の道具立て
02b食べ物を増やす◎植物篇 植物性食料を増やす栽培の道具立て
03収穫時、味への気配り 食料入手時の加工の道具だて
04食料を食品に加工する 食糧の加工調整の道具だて
05食材・食料保存の工夫 「食べる一万年」は「食いのばす知恵の一万年」
06商品化された食べ物の入手 商品流通と買い物の道具だて
07食の情報を手に入れる 食情報入手の道具だて
08a食材の調理方法 食材調理の道具だて
08b食材の調理方法 食材加工の道具だて
09燃料のかたち、火のかたち 炎から熱へ・火の具の道具だて
10誰が食べる、なぜ食べる 食べ事の道具だての基礎条件(118)
11食べ物を口へはこぶ 食器と食具の道具だて(124)
12住まいから出ていく物の行方 ごみ処理とトイレの道具だて(133)

そして結論である「台所のテーマの変遷・一万年双六」(138-139.)に至る。
1食べ物を手に入れる 狩猟採集
2食べ物を増やす 栽培養殖
3食料(食糧)化する 収穫
4食品化する 加工調整
5保たせて美味しく 保存食加工
6食べやすく美味しく (広義の)調理
7食事
8ダイドコ⇔キッチン
9食べ物を口へ運ぶ 摂食
10お口のなかで 咀嚼
11身体のなかで 消化
12住まいから出ていくもの 排出
13住まいから出た後で 処理
今どき:食べ事の窮状
→食べ事を豊かに
→振り出しに戻る
→生きることは食べること 生命を支える環境条件
→食べる営みを支える要因 4つの領域

考古学という学問は、物事の変遷を長い時間軸を通じて洞察できることが利点・長所として挙げられてきた。しかし、人間が生きていくにあたって最も基本的な食事(山口氏流に言えば「食べ事」)一つとっても、そうした作業・成果がはっきりと考古学的に提示されているようには思えない。
例えば、『食べ物の考古学』(樋泉・田村・木下・河野・堀内2007、暮らしの考古学シリーズ(2)学生社)という書籍はどうだろうか。「古代の日本の暮らしはどうだったか? 三内丸山遺跡の食料・魏志倭人伝の食物、万葉、鎌倉時代の食生活など「食べ物」から古代の人々の暮らしをさぐる。」というのがキャッチコピーなのだが、そこにはそれぞれの時代の細切れにされたデータが提示されるのみで、全体を見通すダイナミックな、すなわち考古学という学問の特性を生かした視点は垣間見れない。

だからこそ、本書(山口2006)のような総合的かつ体系的なそしてモノから人間の営みを見通す視点は貴重であり、かつ考古学が自省する際には大きな示唆が得られることだろう。


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アヨアン・イゴカー

>壮大な系統樹。
この視点、発想は大変刺激的でした。生物や経済は進化論で扱われるのに、食事や道具は進化論で語られたのを見たことがありませんでした。
どんなにすぐれた特許でも必要がなくなれば見向きもされません。どうように、どんなによい食材でも道具でも必要とされなければ、忘れ去られてしまうのでしょう。系統樹でそういう進化のとまったもの、絶滅したものを説明すると分かりやすいかもしれません。
by アヨアン・イゴカー (2008-10-16 01:04) 

五十嵐彰(伊皿木蟻化)

道具の進化論といえば、ヘンリー・ペトロスキーでしょう(『フォークの歯はなぜ四本になったか -実用品の進化論-』平凡社、1995)。
従来の考古学が対象としてきた先史社会の物質資料を材料として積み上げられ、繰り返され、語りつくされてきた理論(例えば縄紋土器型式論など)が、他の時代の産物(例えばフォークなど)にどの程度適用可能で、どの程度適用不可能なのかといった、内向きではない外に広がる関心、考古学的思考法の進化論的汎用性・適用普遍性に興味がある考古学者は、・・・ごく僅かなようです。
by 五十嵐彰(伊皿木蟻化) (2008-10-16 21:38) 

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