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2008c「「日本考古学」と海南島」 [拙文自評]

2008c「「日本考古学」と海南島」『海南島近現代史研究』第1号
海南島近現代史研究会:32-37.

「1.主に日本列島を舞台とした歴史的な人間活動の空間的なまとまりは当然のことながら一定ではなく、日本列島という地理的範囲に重なる場合もあれば、縮まる場合も、そして広がる場合もあった。
2.そうした空間的範囲が日本列島域を最も逸脱し拡張した時代が、近現代の「日本」である。
3.近現代に拡張した「日本」の地理的範囲に対応して、先史時代に関する当時の地理的認識も自在に拡大していた。
4.日本列島の枠内において異なる複数の文化を対峙させる構想には、「日本」という枠組み自体の変動性が殆ど考慮されておらず、一体性が前提とされている。
5.「日本考古学」において「日本」の枠組みを固定的に考える傾向は、「日本考古学」が先史中心に思考することで、近現代を排除してきた原因でもありまた結果でもある。
6.さらにこうした構想において、中心をなす文化(「中の文化」)と「もう二つの文化」(「北の文化」・「南の文化」)との間には、明確な格差(序列意識)が認められる。
7.「日本考古学」が研究対象を日本列島と同一視する見方には、<遺跡>という考古学の主要な研究対象を実体視する在り方と同様の構図が見え隠れする。
8.すなわち共に区切れない存在であることが明らかな近現代を排除することで、異なる分布範囲を呈する異なる時代痕跡が重複している実状を直視しないことである。
9.多様な複合体を認識せずに、特定の時代に属する痕跡の部分的な範囲を<遺跡>とみなし、現在の国民国家の領域を「日本考古学」の対象範囲と思い込んでいる。
10.新たな<遺跡>概念、新たな「日本考古学」概念を、新たな世界観、新たな歴史認識をもって、構想しなければならない。」(五十嵐2008c:36.)

「日本考古学」について、ここ五・六年ずーと考えてきた。正確に言うと、2000年11月5日以来ずーと。
「もう二つの文化」構想についても、何でこんな当たり前のことが殊更繰り返して主張されなければならないのか、という違和感はあったものの、その問題性について、明確に認識することはなかった。
しかし、今回の発表を準備する過程で、「日本考古学」問題が、実は<遺跡>問題と通底するということ、すなわち両者は共に同質の構造を呈することがはっきりとしてきた。そうした見通しを得ることによって、今まで取り留めなくバラバラに散在していた諸問題がくっきりと結び付いてきた。

「それから、法第57条の2第1項に書いてある周知の包蔵地というものは、線で引かなければ駄目だと思いますが、線で引くときに、その線というのは、確かな根拠があって引いていなくては耐えられないですね、何か言われたときに。」(和田勝彦2004「周知の埋蔵文化財包蔵地の特定 討論1」『周知の埋蔵文化財包蔵地の特定』埋蔵文化財行政研究会研究発表論集第7集:55.)
「日本列島には多様な文化があり、それぞれの文化のなかも多彩でした。そのすべてが日本文化です。」(藤本 強2008『考古学でつづる日本史』:186.)

「時間的な変遷に関わらず通時代的に、その空間範囲は固定的で、明確な境界(<遺跡>範囲・国境)を有し、境界線の内部は安定的で外部との差異は明瞭であるといった世界認識から、時間的な変遷に応じて、その空間範囲は生成的で明確な境界は一時的で網状を呈し内部は常に変動する不安定で流動的であるといった歴史認識へ。」(五十嵐2008c:35-36.一部改変)

『海南島近現代史研究』第1号(B5版166頁、1200円)については、海南島近現代史研究会事務局(大阪産業大学経済学部斉藤日出治研究室:大阪府大東市中垣内3、saito@eco.osaka-sandai.ac.jp)までお問い合わせ下さい。冊子および振込み用紙を送りますとのこと。


タグ:日本考古学
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アヨアン・イゴカー

>8.すなわち共に区切れない存在であることが明らかな近現代を排除することで、異なる分布範囲を呈する異なる時代痕跡が重複している実状を直視しないことである。
9.多様な複合体を認識せずに、特定の時代に属する痕跡の部分的な範囲を<遺跡>とみなし、現在の国民国家の領域を「日本考古学」の対象範囲と思い込んでいる。

この部分は興味深く拝見しました。具体的な例があると、有難いのですが。どのような事実を基にして、このような見解を書かれたのでしょう?
そもそも国、国家と言う概念は、政治的、経済的力関係によって措定されていると思われます。
by アヨアン・イゴカー (2008-08-07 23:11) 

五十嵐彰(伊皿木蟻化)

「具体的な例」としては、記事の中でも触れました藤本 強2008『考古学でつづる日本史』同成社(1800円)というハンディな本が大型書店に並んでいるかと思われますので、実際に手にとってご確認いただければと思います。こうした書籍に代表されるような言説が現在の「日本考古学」であり、何ら批判的言辞が見受けられないという「事実を基にして、このような見解」を記しました。
by 五十嵐彰(伊皿木蟻化) (2008-08-08 17:50) 

アヨアン・イゴカー

ご回答有難うございます。
by アヨアン・イゴカー (2008-08-08 22:08) 

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