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Cultural Website Quality Principles [考古記録]

過日、考古学情報のデジタル化に関心を持つ何人かと意見を交換する機会を得た。その場において、考古学(向こうでは文化遺産)に関わるホームページ(ウェブサイト)はどうあるべきかといったことが話題になった。そこで「ミネルヴァ」というグループが提示している10箇条の原則を参考に示した。

 

ミネルヴァ(MINERVA)とは、MInisterial NEtwoRk for Valorising Activities in Digitisation(デジタル化促進活動のための行政的ネットワーク)という文化・科学情報・学術領域のヨーロッパ地域の組織である。詳しいことはよく判らないが、日本でいえば『デジタルアーカイブ白書』を出していたデジタルアーカイブ推進協議会(JDAA)の更にアジア地域に拡大したようなものだろうか。しかし日本ではそのJDAAすら2005年で解散してしまった。

 

ミネルヴァでは様々な活動が精力的になされているが、その「クオリティ・アクセシビリティ・ユーザビリティ」という名称の第5作業部会(WP5)が、2003年にイタリアで開催された会議での提言を契機に作成したのがミネルヴァ原則Cultural Website Quality Principles)である。詳細な解説、チェックリスト、実践的テストが付されたPDF版「ハンドブック」(Quality Principles for Cultural Websites: a Handbook)、おしゃれなポスターまで公開されている。

 

彼我の距離を確かめるのには、十分である。目も眩むような隔たりがある。

以下では、杉本 豪氏の協力を得て、「10箇条」の部分のみ訳出した。

 

高品質の文化財ホームページ(ウェブサイト)構築のための10箇条(the ten quality principles.)

あらゆる人々に対して文化的デジタル・コンテンツへのアクセスを提供することによるヨーロッパの文化的多様性のために。
1. 透明性
transparent):ホームページ運用に対する組織の責任と共にその存在意義と目的が明確に主張されており、判りやすいこと。
2. 効果的effective):使用者のために効果的なホームページを生み出すような内容(コンテンツ)を選択・デジタル化・記載・提供・妥当なものとすること。

3.持続性maintained):ホームページが適切なレベルで維持・更新されることを保証する運営指針(ガイドライン)を使用すること。

4.アクセシビリティaccessible):内容・相互性といった面において利用者(ユーザー)の技術あるいは利用者の(身体的)障碍に関わらず、全てのひとが利用可能であること。

5.利用者中心user-centered):利用者の要求(ニーズ)を考慮し、その評価とフィードバックに対応することで適切さと使い勝手を確保するよう利用者のために考えられていること。

6.応答性responsive):利用者がホームページに問い合わせることができ、適切な返答が受け取れるような対応があること。必要があれば質問を奨励し利用者(と提供者)および利用者間での情報を共有し議論を促すこと。

7.多言語性multi-linguality):少なくとも二ヶ国語で必要最低限のアクセスを提供することで、多言語(表示)の重要性について意識すること。

8.相互運用性interoperable):利用者が必要に応じて容易にホームページの内容とサーヴィスを見出すことができるように、文化的情報網(ネットワーク)内で相互に運用可能であること。

9.管理性managed):著作権(IPRIntellectual Property Right)、私的権利(プライバシー)などの法的諸事項を守り、ホームページおよびその内容で使用される条件を明記し、適切な管理がなされていること。

10.保存性preserved):ホームページとその内容の長期間保存を保証するために、適切な戦略と標準(スタンダード)を採用すること。

 

埋蔵文化財センター、大学研究室、図書館、博物館など、記されているチェックリストに応じて採点していって、どれだけのホームページが及第点に達するだろうか?
プログラマーやプランナーといったその筋の専門家の技術や能力だけではない、そうした一部のプロに丸投げしてあとは知らないよといったことがあるのかないのか、組織を構成している一人一人の意識、さらにはそうしたデジタル情報を利用する一般利用者の意識こそが、ホームページの質(クオリティ)ひいては文化財を取り巻く諸活動の在り方を最終的に定めていく。


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独立宣言 日本の高等研究教育の改革と考古学

久しぶりに、いくつか興味のある投稿を読ませてもらいました。相変わらず、吠えてますね。

ヨーロッパの研究雑誌(EUの研究カウンシルのようなところが出すニュースレター)にKiyoshi Kurokawaという首相専任科学アドバイザー?というのでしょうか、その人が日本の高等教育と研究システムに対する改革について述べてました。日本の研究教育の(東大生を例にしてました)閉鎖性を改革するんだそうです。問題としていたのは、日本人(若手)研究者が同じ研究室や大学に居座り続けることです。アメリカのシステムのように、他大学や海外に出て、いろいろな人と交わることで、より「独立」して、「創造性」を高め、研究の「競争力」を養わないといけないと言ってました。ヨーロッパの研究は現在、トップダウン式がはやってます。EU議会が研究プロジェクトの公募を出して、各国(あるいは数カ国)研究者が助成金獲得のため、それに応募するというような感じです。「問題解決」中心の研究なので、ある意味競争力・経済的有効性はありそうです。ただ、プロジェクト単位のため、研究の維持(および研究者の長期的育成)が難しいような気がします。日本の閉鎖性は、ヨーロッパで盛んな研究者の交流や交換を促進して(基本的にEUのポリシーですね)、競争力を高める例を引き合いに出して論じてました。個人的には、彼の改革案は時間がかかると言って主張が控えめで弱い気がしました。時間をかけているうちに他国に競争で負けてしまうような気も・・・。

日本の考古学でも(埋文や大学等)同じことが言えるような気がしました。有益な人材交流と競争力の維持。それが想像力や独立性を促進するのかもしれません。

日本考古学の改革がんばってください。
by 独立宣言 日本の高等研究教育の改革と考古学 (2007-08-07 17:11) 

五十嵐彰

ようこそ、独立宣言さん(以下のネーミングは長すぎて判読不能です)。
「日本考古学」の閉鎖性は、基本的には「地域の編年研究」に終始してしまうかつ自足してしまう「日本的ムラ社会の寄り合い」精神にあるような気がします。そこから「どこ大学の何期卒であるか」が常について回るような精神構造も胚胎するようです。むかーしフランスの洞窟遺跡の現場を見学に行ったとき、ちょうどそこで調査に参加していた大学の後輩が心底驚いたように言うには、「ここでは誰も自己紹介するときに「なんとか大学のなになにです」などとは言わないんですね」と。それぞれが、どこに所属するか、肩書きや後ろ盾などは本質的なことではなく、どのような面白い研究をしているか、どのような独創的な発想をするかが勝負の世界では、それが当然なのですが。日本の考古学も徐々に変わっていくとは思いますが、そのスピードたるや時々苛立たしくなることがあります。
by 五十嵐彰 (2007-08-07 20:50) 

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