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日本旧石器時代研究の現状と課題(続) [石器研究]

安蒜2007において「早急な見直しを要する根本的な課題」として提示された日本旧石器時代研究の二つの問題、①「石器の編年研究」、「層位と石器群の問題」、「一石器群の完全分離・抽出」すなわち「文化層」問題、②「遺跡の構造研究」、「石器群を石器作りの単位に区分」すなわち「母岩識別」問題について、関連する団体あるいは人々は、どのような対応を示しているだろうか。

内容的にそして時間的に最も近いイベントは、6月23日・24日に開催される「第5回日本旧石器学会総会・研究発表・シンポジウム」である。しかるにそこで予定されている記念講演・一般研究発表・シンポジウム発表の何れの題目を見ても、安蒜2007提言に呼応するものは見当たらない。
それよりも何よりも、当の安蒜2007が発表された「日本考古学協会第73回総会テーマ・セッション『日本旧石器時代文化のはじまりと特質』第1部:日本旧石器時代の起源 第2部:東アジアの旧石器時代と日本列島」において、日本旧石器時代研究における「早急な見直しを要する根本的な課題」に正面から答える発表は見当たらないし、そもそも設定テーマ自体が「かすりもしない」というのは、いったいどういうことだろうか。

「一方、わが国の旧石器研究においては、石器接合や母岩別分析とそれらの原産地推定などの研究から、遺跡間の連続性や原石採取にかかわる行動や集団関係についての研究が大きな進展をみている。この石材原産地の開発利用と石材の消費地への分布状況の把握は、集団の領域や交換(交易)を通じた集団間の関係を探るうえできわめて有望な研究資料である。これまで蓄積された研究成果はわが国の旧石器研究の長点(ママ)として世界に誇る成果であり、今後の発展が期待される。」(小畑弘己2007「旧石器時代」『考古学の基礎知識』:62-63. 
引用者註:ちなみに「長点」とは「連歌・俳諧などで、特に優れたものに加える点」とある。
「頂点」の誤りか?)

「世界に誇る」前に(あるいは誇りつつ?)、「研究の成果それ自体を検証する能力」(安蒜2007:11.)が問われているように思われる。でなければ、「今後の発展」も期待できない。

では、どうすればよいか?

「異なる見解を尊重する。厳しい反対意見があっても一蹴し、さらには資料・データが共有されない場合があった。対極にある意見を尊重することは、当事者では困難な場合もあり、第三者を含めて議論を構造化させる努力が求められる。」(石川日出志2007「前・中期旧石器捏造問題の反省をどう生かすか」『有限責任中間法人日本考古学協会第73回総会研究発表要旨』:87.)

捏造問題の脈絡において述べられた提言であるが、捏造問題に限定されない科学的営為一般に当てはまる至極当然の事柄で、こうしたことが改めて述べられなければならないという点に病状の深刻さが現われているし、正直言って情けない。「文化層問題」と「母岩識別問題」において「第三者」とはどのような立場の人々なのか判断が難しいところだが、「議論を構造化させる努力が求められる」ことに異存はないだろう。「構造化」とは判りにくい表現だが、そうした「議論」が普通に行われるぐらいに考えてよいだろう。そうした「努力が求められ」ている人々(当然私もそこに含まれるだろう)が、これからどのような努力を示していくことができるか注視していこう。


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