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日本旧石器時代研究の現状と課題 [石器研究]

このような題を付した講演がなされ、文章が発表された(安蒜政雄2007「日本旧石器時代研究の現状と課題」『有限責任中間法人 日本考古学協会第73回総会 研究発表要旨』:10-11.)。
1.日本旧石器時代研究の歩み 2.旧石器時代研究の新体制と課題 という2部構成である。
果たして2007年の「日本旧石器時代研究の現状と課題」は、どのように認識されているだろうか。

「現在、捏造事件に見舞われた旧石器時代の研究は、体制の立て直しに迫られている。新体制の構築に臨み、いま、旧体制を支えてきた研究の基盤が見直されると同時に、いくつもの脆弱さが洗い出されつつある。」(同:11.)

「立て直しに迫られ」「見直される」と表現された「旧石器時代の研究」「旧体制を支えてきた研究の基盤」とは、具体的にどのようなものなのだろうか。それは、前半に記された研究史の冒頭箇所にて明言されている。

「旧石器時代の研究は、主に二つの領域から進められてきた。石器の編年研究と遺跡の構造研究である。」(10.)

「旧体制を支えてきた研究」すなわち「石器の編年研究と遺跡の構造研究」「が見直されると同時に、いくつもの脆弱さが洗い出されつつある」との表明である。
具体的に何がどのように見直されて、どのような脆弱さがどれほど「洗い出されつつある」のだろうか。

「重層遺跡から発掘される層位的な石器群の出土例は、編年研究に欠かせない重要かつ基礎的な資料である。だが、層位別に取り出されている石器群のどれもが、果たして、互いに上下し合う地層中の石器群と混在せずに分離され、正確な一石器群ごとに抽出されているかどうか。層位の別に図示された石器群の平面分布を重ね合わせてみるとき、しばしば、そうした疑念がよぎる。」(11.)

2007年になって表明された「疑念」は、実はもう既に何回も繰り返し表明されてきたはずの「疑念」である。

「坂下遺跡の垂直方向区分(「文化層」)については、重複した資料群をどのように区分したかという過程がブラックボックスとなっている点と共に、「報告書」の総括の章では疑問視されている区分単位の設定が個別記載の章では確定されたもののごとく記述されていることが問題として指摘される。こうした分析単位の区分作業を行う上で、ある限界を有しつつも大きな役割を果たすのが、接合資料と母岩別資料の認識である。両者については、幾つかの遺跡報告例を検討したうえで新たな提示方法を提案し(五十嵐1998b)、実践例を示した(五十嵐1998c)。」(五十嵐1999e「旧石器資料報告の現状(Ⅰ)」『東京考古』17)。
「本稿は、現在の旧石器資料報告においては疑われることの少ない当たり前の分析単位である基礎的諸概念がどのようにして設定されているのか、という旧石器資料報告にかかわる検討作業(五十嵐1998b)の一環をなすものである。最終的には、分析単位を設定する手法の検討を通じて、収集したデータをテクスト化する作業に潜む古典的規範を指摘し、多様な実態を多様に解釈しうる準備作業を目指している。すなわち「文化層」をはじめとする様々な分析単位は、考古学者が作り出す恣意的な記号群である、という認識の必要性である。」(五十嵐2000e「「文化層」概念の検討」『旧石器考古学』60)。

それでは、「旧体制を支えてきた研究」としてあげられた今ひとつの「遺跡の構造研究」、すなわち「遺物全点の出土位置を記録し、石器群の石器作りの単位に区分して、互いの接合関係を追跡する、個体別資料分析法」(10.)の「脆弱さ」については、どうだろうか。残念ながら安蒜2007でははっきりと述べられていないのだが、本ブログの読者にとっては明白であろう。

「「母岩識別」という資料操作の方法と対象とする資料の性格は、密接に関連している。例えば集中部ごとに母岩を識別する方法を採用すれば(集中部重視)、多くの場合に集中部以外から出土した資料は母岩識別の対象とされない(集中部外軽視)。同一の資料を対象にしても、母岩識別の方法と対象範囲の設定方法の違いによって、得られる結果は大きく左右される可能性が高い。必然的に得られる結果(母岩認識)に基づいて設定される実体的な「母岩類型」および「母岩類型」に基づいて導き出される「搬入」「搬出」「製作」といった解釈についても、振幅が生じざるを得ない。」(五十嵐2002b「旧石器資料関係論」『東京都埋文センター研究論集』19:46-57.)
「旧石器資料報告における「母岩問題」は、空間属性が「石器群」から「集中部」単位に細分され、材種属性が「石材」から「母岩」に細分され、最小サイズの器種属性である「砕片」に焦点が集中した時に、その問題性が最も顕在化する。」(同:58.)

その他、本ブログ関連記事(2005-10-052006-06-02など)も参照されたい。

以下の言明は、当然のことながら、こうした問題提起を受けてのことであろう。

「遺物全点の出土位置を記録し石器群を原石単位に分けて接合する、構造研究の手法を援用するなどした、一石器群の分離と抽出を可能とする方法論の開発が待たれる。この一石器群の完全分離と抽出は、旧石器時代の起源探究とも大いに関連してくる。」(安蒜2007:11.)

私も「待たれる」。新たな「方法論の開発」を。
そして「石器の編年研究と遺跡の構造研究が積み重ねてきた、研究の成果それ自体を検証する能力をもった、これまでにない研究領域の開拓」(同)がなされることを。


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