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「本来の位置」考 [考古記録]

「本来の位置」があるものとないもの。
これが、構造物と道具という、考古学的には「遺構」と「遺物」という考え方の一つの視点になるような気がしてきた。

そして、「本来の位置」という空間的スケールの取り方によって、そのニュアンスというのは微妙に変化してくるように思われる。

例えば、人間が空間を移動するための道具を考えてみよう。
自動車と電車では、自動車の方がはるかに空間的移動の自由度が高い。言い換えれば、「本来の位置」というものがない。ところが電車やモノレールは、なにせ「軌道」という制約があり、自動車のように自由にあっちに行ったり、こっちに行ったりすることができない。
あるいは自動車や電車などに比べて、はるかに構造物的、すなわち構造物に取り込まれている「空間移動道具」として、エスカレーターとエレベーターがある。エレベーターに比べてエスカレーターの方がはるかに道具的のような気がする。なにせエレベーターの方は、ある空間を構成する「箱」が「箱」ごと上下に移動するわけだから。しかし、その「箱」に「本来の位置」はない。エレベーターという装置における「本来の位置」とは、「箱」の「位置」ではなく、エレベーターという装置が設置してある構造物内におけるある場所なのだ。それは、広く見れば、ケーブルカーの設置場所であり、ゴンドラ・リフトの設置場所と同じということになろう。あるいは、観覧車の設置場所。
観覧車と水車を比較すれば、水車の方が、はるかに構造物的といえる。それは単なる大きさの違いだけではなく、観覧車が人間が乗るある空間の移動を目的とするのに対して、水車が水流を用いた動力変換装置であることに基づく。

自動車(自転車) - 電車(モノレール) - ケーブルカー(リフト) - エレベーター - エスカレーター - 観覧車 - (水車) - 回転ドア - ・・・

あるいは、もっと部分的なものに目を留めて考えてみよう。
例えば、私たちが毎日使っている「蛇口」。それがハンドルをひねる古典的なそれであろうと、手をかざせば触れることなく赤外線が探知して水が出てくる現代的なそれであろうと、水道管の末端部に固定されている限り、構造物と一体化した「部材」として何の違和感もない。
ところが、一度それらが部分的であれ可動性を持ち始めると、例えば、床屋さんにあるようなホース付きのシャワーのような、あるいはガーデニングに使う20mホースが収納されるリール型のそして手元で様々な噴霧形態が選択できるタイプ、果ては30m級のはしご付き消防自動車に至るまで、どんどん構造物を構成する部材イメージから離れて道具的イメージへと接近していくような気がする。

「本来の位置」という場合の「本来」とは、これまた非常に微妙な言葉である。明確であるようで、その実、極めて曖昧といった・・・

別の例を挙げてみよう。
ある両面加工の石器が、ある特定の地層に掘り窪めた穴から、ある特定の状況(例えば「T」の字形と「U」の字形を組み合わせた形状)で見出されると「本来の位置」を保った「埋納遺構」とされる。
それが、「本来の位置」を失った個別バラバラに見出されるとき、より下層で検出されれば「へら形石器」と呼ばれ、より上層で検出されれば「箆状石器(石箆)」と呼ばれる。

この場合の「本来の位置」というのが、いかに「本来」でないか、そして当初はいかに「本来」のように思われたかについては、多くの人が噛みしめている思いである。


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鬼の城

原位置論ではなく、現位置論だと思います。また土層に五寸釘で線を引きますが、この線引きにもどれだけ妥当性があるのか、疑問です。明確に線引きできる場合と、暫定的に土層が変化する場合とあります。それをのべつくまなく五寸釘で線を引く、これが問題でしょう。。
by 鬼の城 (2006-12-06 13:57) 

五十嵐彰

「層界すなわち土壌層位間の境界は、明瞭な場合も漠然としている場合もあり、また境界の形状も平坦なものから複雑な形のものまである。境界が明瞭な場合には、そこを境として土壌の物理性や化学性が急激に変化していることを示す。層界の明瞭度は、次の層までの移り変わる距離(層界の幅)によって、つぎの4段階に区分される。
画然:1cm以内 ━ 太い実線
明瞭:1~3cm ─ 実線
判然:3~5cm ─・─ 鎖線
漸変:5cm以上 ・・・・・ 点線
層界の幅が10cm以上に及ぶような時には、一つの層位として独立させた方がよい場合が多い。」
(ペドロジスト懇談会編1984『土壌調査ハンドブック』博友社:28-29)
by 五十嵐彰 (2006-12-07 07:50) 

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