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<遺跡>問題現況 [遺跡問題]

「線引きのことは、文化庁の通達による指導で出てきましたけれども、しっかりとした根拠なしでやることはできない。根拠なしでやるのは行政の実行段階でのまずさということになります。埋蔵文化財の性質・宿命として、埋まっているから普段は見えないので調べないとその範囲がよく分からないという包蔵地と既に範囲などがよく分かっている包蔵地が出てしまいます。その場合でも分からないから適当に線を引いておけばいいということは今後はますます許されなくなっていくでしょう。情報公開もそうだろうし、アカウンタビリティ、説明責任もそうです。「どういう根拠でこの線をこう引いたの?」と聞かれたら答えなければいけない。「私の考古学的な知見によれば、ここで遺構が出たらここまで続くはずである」とか「台地はここまで行ってるんだから、ここで遺構がでたら、この台地の外れまで入れるのが考古学の常識だ」ということが説明責任として許されるかどうか。たぶんそんな主観的な根拠ではダメです。」(和田勝彦2006「周知の埋蔵文化財包蔵地の特定について」『埋蔵文化財行政研究会 研究発表論集』第10集:15)

「考古学の常識」とは、「ここで遺構が出たら、あそこまで続くはずだ」といった事柄だけではないはずである。

「周知の埋蔵文化財包蔵地の問題については、基礎的問題であるにもかかわらず、問題整理がなかなかつかず今回も共通理解が得られたとは言い難いのかもしれない。しかし、埋蔵文化財行政がおかれている現状はそのような流暢なことが言える状況ではなく、ある程度は原則論として、これらの議論を纏め上げる時期に到達していることが認識できた。」(上守・村松2006「編集後記」同)

「周知の埋蔵文化財包蔵地」の問題については、埋蔵文化財行政側に関してのみ「基礎的問題」なのではない。埋蔵文化財行政とある意味で表裏一体である「日本考古学」においても、<遺跡>を巡る諸問題は「基礎的」であるに違いない。しかし「包蔵地」そして<遺跡>を巡る問題整理はなかなかつかず、共通理解が得られているとは、とても言い難い。埋蔵文化財行政すなわち「日本考古学」がおかれている現状は、「そのような流暢なことが言える状況」ではないはずなのに。

<遺跡>問題と「包蔵地」特定問題の相互関係について、時系列に沿って整理してみよう。 

2003-11-15:「周知の埋蔵文化財包蔵地の特定」埋蔵文化財行政研究会シンポジウム(京都)
2004-2-7:「周知の埋蔵文化財包蔵地の特定」『研究発表論集』第7集
2004-3-31:五十嵐2004b「近現代考古学認識論 -遺跡概念と他者表象-」
2005-1-29:五十嵐2005a「遺跡地図論」
2005-6-18:「周知の埋蔵文化財包蔵地の諸問題」埋蔵文化財行政研究会(東京)
2006-1-14:五十嵐2006a「遺跡は存在するか? -<遺跡>問題の構成-」
2006-5-27:「周知の埋蔵文化財包蔵地の諸問題」『研究発表論集』第10集

五十嵐2004bでは、2003埋文行研集会において「複合遺跡」の範囲問題に無関心であること、第一歩として考古学としての<遺跡>概念と行政としての「包蔵地」概念を明確に認識する必要性を述べた。それは「一枚の遺跡地図に単一の遺跡範囲を確定し、対応する遺跡リストの項目に該当する時代名称を列記するといった現行の埋蔵文化財システムは、多くの点で破綻をきたしている」(五十嵐2000a「近現代考古学」p.55)と指摘したことに対する一つの提案でもあり、その問題性については更に五十嵐2005aにおいて詳述した(【2005-9-1】ほか参照)。しかしながら、そうした問題提起についても、2005埋文行研集会では一顧だにされることはなかった。
このことは、埋文行政研究だけではなく、「日本考古学」においても全く同様である。

「2004年度においても、多くの埋蔵文化財保存問題が表出された。こうした問題について当該行政と懇談をするたびに、行政には埋蔵文化財を地域計画や地域住民の福利厚生につなげていくための論理が十分に確立されていないということを痛感した。埋蔵文化財が地域の人々の生活向上につながる価値をもつという理論が行政に確立され、かつ地域住民に定着しない限り、遺跡の保存問題は繰り返されるに違いない。
(中略)埋文委もまた、これらの動きを注視しつつ、全国委員諸氏と共に、地域の暮らしに還元できる研究や活動のあり方を意識した保護理論の確立に努めなければならないと認識する。」(松本富雄2006「埋蔵文化財保護活動の動向」『日本考古学年報』第57号:29)

「論理が十分に確立されていない」のは、埋文行政サイドだけではないことを痛感する。
<遺跡>問題を避けて、一体どのような「保護理論」が確立されるのだろうか?


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