SSブログ

山岡2005 [論文時評]

山岡拓也2005「石器認定研究の現状と課題」『論集忍路子Ⅰ』忍路子研究会:29-42.

「星野」「岩宿D」「早水台」・・・
「前期旧石器存否論争」というのがあった。そこから「捏造石器」が現れた。「論争」は終結した、かに思われた。実際は、何の問題も解決していなかった。
偽りの「確実な出土層位と明確な石器形態」に惑わされていただけだった。
虚構の30年が経過した後に残っているのは、以前の「論争」で未解決な問題群と新たに報告されている「新資料」(「金取」「鶴ヶ谷東」など)である。

欧米における石器認定研究が述べられる。対象は、「確実でない出土層位と明確でない石器形態」である。日本の現状を鑑みる時、参考にならないはずが無い。
肯定派は多くの場合、「石器」試料自体の観察に基づいてその論拠を述べる。
否定派は大概、「石器」試料の出土状況、そのコンテクストに基づいて論じる。
両者の議論が噛み合うはずもない。

Schnurrenberger&Bryan1985に即して述べられる。
「それまでの石器認定研究、とくに、「石器」試料そのものの特徴から評価する石器の知識と自然作用で形成される偽石器の知識を合わせて考えなかったことを指摘した。再堆積したコンテクストにある問題の「石器」試料を評価するとき、これまで蓄積されてきた諸知識をいかす必要があり、そのためにはこれまでの多様な研究成果を統合するための一般的なモデルが必要であるとした。・・・これにつづいて、研究デザインを構成する3要素について示した。その3要素とは、(1)「石器」試料とコンテクストに関わるデータ回収方法・(2)「石器」試料のコンテクストの評価・(3)「石器」試料の技術的な評価である。こうした諸情報をもとに、再堆積した層準に含まれる「石器」試料が石器であるとするためには、「石器」試料の出土地点や包含層の地質学的な形成過程で生じる割れ石の特徴をもたず、変則的な特徴を有していることを示す必要があるとしている。そのための手段として、「石器」試料の出土地点と類似した地質学的なコンテクストにある既知の自然試料か、関連する実験研究で得られた実験試料のいずれかと比較検討する必要があるとしている。」(p.34)

そして他の研究成果として「試料回収時に石器と形態的特徴が類似するもののみを抽出する"form-selection"(形態選別、Duvall and Venner,1979)が行われたこと」(p.35)も紹介されている。

最新の石器認定研究の事例としてPeacock1991とGillespie et al.2004が紹介され、「石器と偽石器を排他的に区分できる単一の属性はないこと」「現実的に可能な試料の評価は、形成要因が明らかな試料体との比較をとおして、試料体全体として石器である可能性が高いのか、低いのか、あるいは混在しているのか、という相対的なものになる。石器か偽石器かという単純な二分法によって個別試料ごとを評価することは基本的に難しく、試料体の確率論的な評価しか行えない」(p.40)ことが述べられている。

山岡2005で紹介されている研究事例は、日本列島における「石器認定研究」を考える上で、私たちが最低限踏まえなければならない常識とならなければならない。

「そこで資料を見ると、それらはすべてチャートで作られており、1~3cm程度の小形石器が多く、さらに8~15cmの大形石器が2点認められた。小形石器はノッチ、スクレイパー、彫刻刀等であり、大形石器はスクレイパーとチョッパーであった。芹沢はこれらの石器は栃木市星野遺跡の第7~15文化層のチャート製石器に共通する特色を持つものと判断した。」(芹沢・柳田・阿子島・小野2006「群馬県桐生市鶴ヶ谷東遺跡の前期旧石器」『日本考古学協会第72回総会研究発表要旨』p.25)

「ミドルレンジセオリーは、単に資料のパターンと行動との間を蓋然的言葉によって対応をつけるだけが目標ではなく、解釈のためのより大きなモデルを確立することをめざしている。行動パターン自体がどのような条件によって規定されているのかをも重要な追求課題とするのである。そして、そのようなシステムの状態が発生した時には、いったい考古資料にどのようなパターンとなってあらわれるのかを解明しようとするのである。」(阿子島 香1983「ミドルレンジセオリー」『考古学論叢Ⅰ』p.191)


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0