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回想(総括-1) [捏造問題]

東北地方を主とする前期旧石器資料は、当初は、時代呼称用語・年代測定値の信頼性・出土状況の様相など様々な点で疑念が指摘されながらも、90年代には表立った批判は影を潜め、全体的には静観あるいは様子見といった状況を呈していた。

一方で、宮城県内から関東・北海道へといった空間的拡張、20万から50万・60万更には100万といったインフレーション的年代の遡及、発見物が単なる石器集中部から「埋納遺構・住居状盛土遺構」といった多様なバリエーションに増幅されるなかで、改めて疑惑も増幅していった。

そして周知のように、こうした発見の自己増幅の過程において、2000年11月5日に破綻した。

しかし、である。
もしも何等かの物理的事情によって、座散乱木調査の時点で、あるいは馬場壇調査の時点で、捏造行為自体が途絶したと仮定するならば、すなわちインフレーション発生段階以前において、犯行現場が映像に映し出される機会が永久に失われていたとしたら、馬場壇Aに打ち込まれた史跡標柱を、私たちは独力で引き抜くことが出来ただろうか。

あるいは、犯行者が何等かの内的意志決定をもって、犯行の継続を80年代で途絶したとするならば、犯行映像あるいは本人自白なしに日本考古学協会は前・中期旧石器問題調査研究特別委員会に相当する何等かの組織を設置することができたであろうか。そして、馬場壇Aの検証発掘を行うのは、何時のことになったであろうか。
10年後? それとも50年後? あるいは・・・

考えるのも恐ろしいことである。しかしながら、考古学という学問には、そのような状況が発生しうる「種」が内包されている、という厳粛な事実を見据えることから全てのことがスタートする。スタートしなければならない。
問題の本質は、「石器研究の不在」とか「石器観察が基本」といったレベルではないのである。
私たちが日常的に携わっている事柄には、こうした恐ろしい「種」が胚胎している。そして、平穏な毎日において、その「種」を認識することは殆どないが、ある特殊な状況下においてはそれが露わにされることがある。

そのことが世界中の人々に示されたのが、「捏造問題」である。

 

 

 


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鬼の城

捏造事件の解明が、皮肉なことに日本考古学の暗黒部分を作った(第1次的関与者、あるいは第2次的関与者などの責任追及を行わないことで、不透明な部分を残したこと)。これを黙認する構造が、高橋哲哉さんが言う戦後戦争責任を追及しない構造と酷似している、と思います。。。
by 鬼の城 (2005-11-11 17:04) 

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