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母岩識別批判(8) [石器研究]

最後に、実際の母岩識別の実態はどのようなものか、一つの事例を取り上げて、現状なりを確かめてみよう。

検討対象は、『菅原神社台地上遺跡』(1997)東京都埋蔵文化財センター調査報告第46集:第1分冊(先土器時代・縄文時代編)である。
まず以下のような記述がある。
「母岩の認定は、肉眼でわかる範囲で行った。その中では黒曜石は小剥片・砕片がほとんどで分類は難しかった。2つ以上のものが混じっている可能性も否定できない。実際に、ひとつの母岩のなかに2ヵ所の原産地が同定された例もある。また、硬質頁岩には、個体としてはいくつもあるのに石質が類似していてひとつの母岩とした場合も多い。母岩分類は、産地が同じである可能性を示す参考資料と考えたい。」(同書:p.21)

「実際に、ひとつの母岩のなかに2ヵ所の原産地が同定された例もある」のに、「母岩分類は、産地が同じである可能性を示す参考資料と考えたい」とは、どういうことなのか?
実際の記述をみてみよう。

「母岩分類については、ひとつの石器の中でも部分によって石質の異なっているものがあり、完全に分けることができなかった。その中で、12の母岩に分けることが可能であった。
硬質頁岩①は、褐色とチョコレート色からなる。礫皮面は赤褐色を呈する。接合資料によって復元された個体だけで11個体あり、いくつかの母岩の集合体であることは明らかである。しかし、これ以上区分することはできなかった。」(同:p.33)

引用文前半は、「母岩識別批判(3)」【2005-10-07】で述べた「前提1:母岩内均質性」が維持できていないことの表明である。
引用文後半は、同じく「前提2:異母岩間多様性」が維持できていないことの表明である。
以上のことから、当該資料に関しては、母岩識別研究が前提とする2つの条件が共に満たされていないことが明らかである。

「(31号ブロック)頁岩①は17点が所属するが、そのほとんどが接合し、棒状の礫に復元される。28号ブロックの頁岩②が、接合関係にあり同一母岩である。」(同:p.76)
先ほどの12母岩に分類された硬質頁岩は、複数の集中部において共通した母岩番号が付与されていたが、この場合(28号と31号ブロックの頁岩)は、集中部ごとに母岩番号が与えられているようである。

「(2号ブロック)黒曜石①は、黒色と灰黒色が縞状になっており、夾雑物を少量含んでいる。54点である。この母岩は21号ブロックの黒曜石②と同じ母岩である可能性が高い。」(同書:p.161)
「(25号ブロック)黒曜石②は黒色で半透明である。灰色の夾雑物を含んでいる。26号ブロックの黒曜石と同一母岩であると思われる。」(同書:p.166)

さて、問題です。
この場合の母岩番号付与方式は、複数石器集中部共通方式か。それとも個別石器集中部独自方式か。

半日を費やして読解に務めたが、その結果は、・・・・
「よく判らない。」

これでは、「悲喜劇」が繰り返されるばかりである。
そもそも「悲喜劇」を避けようと積極的に取り組む意欲を見せる読者の存在すら想定が困難である。
積極的に取り扱われることのない記載とは、何なのか?
そうした記載が粛々と繰り返される日本の旧石器研究とは?

 


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