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母岩識別批判(7) [石器研究]

母岩識別研究の問題の根は、深い。
そもそも、どのような方法で母岩識別という手法を対象データに適用していくかというレベルですら、合意が得られていない。
というよりは、合意が得られていない、という認識(問題意識)すら希薄である。

対象資料の範囲(全石材対象か一部石材対象か)、識別の程度(全点識別か部分識別か)によって、4類に区分した(五十嵐2002b:p.39-40)。
母岩認識1a:全ての石材を対象として、全ての資料を識別する。
母岩認識1b:全ての石材を対象とするが、部分的資料を識別する。
母岩認識2a:一部の石材を対象として、対象資料の全てを識別する。
母岩認識2b:一部の石材を対象として、対象資料の部分を識別する。

全石材対象・全点識別の<母岩認識1a>すなわち「砂川モデル」から、対象とする石材を限定しなおかつ識別不可資料を容認する<母岩認識2b>の「慎重派モデル」まで、研究者の立場は様々である。

報告者の母岩認識の程度に応じて(本人は無意識の場合が多いと思われるが)より多様性を見せるのが、「母岩番号の付与方法」である(同:42-44)。
まず複数の石器群(「文化層」)が認められる場合に、複数石器群全体を対象として母岩番号を付与するのか、それとも個別の石器群ごとに母岩番号を付与するのかという選択肢がある。
前者(複数石器群共通母岩番号方式)では、異なる石器群において共通する母岩が用いられる場合があることを想定している。しかし、実際にそのような事例が見出された場合でも、そのことに対する意味付け(例えば、時期を違えて同じ母岩が用いられた)を与えている事例は、殆どない。
後者(個別石器群ごと母岩番号方式)では、母岩というものはある特定の時期(石器群)内において完結している、ということが前提である。仮に異なる石器群の間で似たような(共通する)母岩が見出された場合でも、そのようなことは有り得ないとして却下され、全く別個の母岩番号が与えられるに違いない。

更に問題なのは、「複数石器群共通母岩番号方式」でも、「個別石器群ごと母岩番号方式」でもない第三の母岩番号方式が存在することである。
それが「石器集中部ごと母岩番号方式」である。この第3方式が問題なのは、複数の石器集中部で共通に認められる母岩は複数石器集中部での共通番号を、複数の石器集中部では認められず単独の石器集中部だけで認められる母岩には個別集中部独自の番号を付与するという、方式自体に一貫性がない(場当たり的な)ことである。

こうした複雑な母岩番号付与方式がもたらした「悲劇」の一端が、「野川中洲北遺跡」(1989)と「多聞寺前遺跡」(1983)の出土母岩に対する読み取り数値の格差という問題となって、表出している(五十嵐2002b:p.67)。


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