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パラドックス [雑]

ある宿舎の柱に掛かっていた、あるタペストリーから。 

私たちの時代の矛盾

大きくなった家、小さくなった家族
便利になって、時間がない
高学歴になり、感性は鈍く
知識は増し、判断力は衰え
専門家は増え、問題も増え
医療は進み、健康は損なわれる

月旅行はするが、新しい隣人に会うため道一つ渡ろうとしない
情報を蓄えコピーするためコンピュータを作り、
人とのコミュニケーションは低下する
量を重視し、質を軽視している

ファストフードの時代だが、消化不良
身体は大きくなったが、品性に欠ける
利益ばかり追い求め、人との繋がりは希薄

外から見える窓は多くのもので充ちているが、
部屋の中はスカスカ、これが私たちの時代

ダライ・ラマ14世


THE PARADOX OF OUR AGE

We have bigger houses, but smaller families;
  more conveniences, but less time;
We have more degrees, but less sense;
  more knowledge, but less judgement;
  more experts, but more problems;
  more medicines, but less healthiness;
We've been all the way to the moon and back,
  but have toruble crossing the street to meet the new neighbour.
We built more computers to hold more information to produce more copies than ever,
  but have less real comunication;
We have become long on quantity, but short on quality.
These are times of fast foods, but slow digestion;
  Tall man but short character;
  Steep profits but shallow relationships.
It's a time when there is much in the window,
  but nothing in the room.

H.H. The XIX Dalai Lama

ミラーを立ててボタンを押すだけで3次元データが格納され、その日の内にドット・マップでも遺構平面図でも。
水糸を張り巡らしコンベをあてて、スタッフを立ててレベルを覗いてという時代とは、隔世の感である。
ロットリングや丸ペンでトレースした図をペーパーボンドで台紙に貼って、はみ出たボンドはラバーで取り去り、ロール・トレペのカバーに縮尺指示を書き込む。
今ではイラストレータによる図をインデザイン上で配置、更には3次元実測という時代である。
以前なら500ページほどの図版を印刷屋さんに渡そうと思ったら、台車に乗せてゴロゴロ押していかなければならなかったのに、今ではスティック1本でハイ終わりである。
注意深く挿入したはずのスライドが上下逆だったり裏表だったりして手間取り、会場にぎこちない時間が流れる。
今では誰もがパワポのアニメーションを駆使した飽きさせないプレゼンである。

しかしそのことで、あの時代と比べて私たちの時間や思考、感性、判断力、他者との絆は、どれほど深まっただろうか?

世田谷の高級住宅街にある美術館の改築に伴う調査で昼前の11時頃から買い出しに出かけて、みんなのお昼ご飯を用意していた日々
ディスコ・ブーム真っ盛りの六本木で、昼休みには元野球部を相手にひたすらキャッチボール
大学の新しい校地造成のための調査で出来た巨大な廃土山で、大雪の朝にオレンジ色のプラ箕で橇滑り

ああした日々は、二度と帰ってこないだろう。
これは「古き良き時代」を懐かしむ年寄りの回顧なのだろうか。
それとも今の若い人たちも、今の時代を30年後・40年後には「ああした時代があったなぁ~」と懐かしむのだろうか。
後期資本主義の病理とも言うべきパラドックスに満ちた「この時代」を。


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