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Vrdoljak 2006 International Law, Museums and the Return of Cultural Objects [全方位書評]

Ana Filipa Vrdoljak 2006 "International Law, Museums and the Return of Cultural Objects" Cambridge Univ. Press.
ヴルドリャク 2006 『国際法、博物館そして文化財返還』 ケンブリッジ大学出版

文化財返還問題は決して新しい問題ではないが、近年ますます激しい議論の対象となっています。この重要な書籍は過去2世紀の間になされた占領社会からの文化財の略奪と返還の様相を明らかにし、国際文化遺産法の同時代的な発展を分析しています。本書は、返還を求める声に応じる国際法および博物館の方針に関するイギリス、アメリカ、オーストラリア政府および博物館によってなされた重要な影響について論じています。こうした主張は、博物館とそのコレクションが抱くであろう長期間に及ぶ恐れを解消するようなものとはなりえぬものだが、自己決定と文化的アイデンティティというプロセスにおける重要で新たな役割を博物館に与えます。本書は魅力的で示唆に富み、考古学・国際法・文化資源マネジメントに関わる全ての人々にとって有益な書籍です。

アナ・フィリパ・ヴルドリャクは、西オーストラリア大学法学部上級講師である。

第1部
1 19世紀前半の状況と国家的文化
  19世紀における少数者の保護
  国家的文化伝承の勃興
  大規模展覧会、サウスケンジントン博物館、国家的アイデンティティの創出
2 19世紀後半の国際法、国際展覧会
  19世紀の植民者と国際法
  帝国のコレクションと展示
  戦争と非ヨーロッパ社会の文化財
3 解体する帝国と第1次世界大戦後の平和条約
  少数者と国家連合
  文化財返還と第1次世界大戦後の平和条約
  イギリス帝国内の返還
第2部
4 植民地化された人々と国家連合
  植民地化された人々、その文化財、国家連合
  国際的な博物館事務局と文化財返還
  合州国と先住アメリカ人:インディアン・ニューディール政策への同化
5 20世紀中頃の返還
  先住民、アメリカのアイデンティティそして国連信託統治
  20世紀半ばにおける戦時紛争期の文化遺産の法的保護
  第二次世界大戦後の返還
  20世紀半ばの先住アメリカ人文化
6 冷戦期におけるジェノサイド、人権そして植民地化された人々
  ジェノサイド、文化遺産
  冷戦期における人権、集団権
  冷戦期における合州国、先住民たち
第3部
7 返還抜きの脱植民地化
  脱植民地化と自己決定権
  脱植民地化と文化財への国家継承
  返還と1970ユネスコ条約
  返還とユネスコ政府間委員会
  新たな国際文化規約への作業
8 先住民たちとプロセスとしての返還
  先住民たち、自己決定権、文化権
  ユネスコ政府間委員会の作業に対する評価
  1970ユネスコ条約の履行
  先住オーストラリア人と博物館との再交渉
9 先住民たち、諸国家そして和解
  自己決定と1993国連宣言
  WGIP(国連先住民作業部会)と先住文化遺産の返還
  返還と1995UNIDROIT(ユニドロワ・私法国際統一協会)会議
  先住民たちへの国家的返還モデル
  オーストラリア博物館と植民地主義の再収集と和解

本書執筆のきっかけは、ある一人の女性の人生を知ったことによるとされる。
トルガナンナ(Truganini:1812-1876)は、最後のタスマニア・アボリジニである。
1997年、彼女のネックレスとブレスレットが、イギリスのロイヤル・アルバート博物館からタスマニアに返還された。
そもそも何故、どのようにして彼女の装飾品が、イギリスの博物館などに収蔵されることになったのか?

世界の各地、有名・無名を問わず様々な博物館・資料館・考古学研究室には、こうした「汚染された品々」が収蔵されている。
現在、東京都美術館で開催されているアメリカ・メトロポリタン博物館の古代エジプト展は、どうか?
「汚染された組織」から「汚染された品々」を救い出して「汚染度」を下げる「除染作業」が、文化財返還運動である。
目に見えない放射線量を測るには、ガイガー・カウンター(放射線量計測器)が必要である。
文化財の汚染度を測るには、文化財を観る一人ひとりが自らのガイガー・カウンターを持つ必要がある。
文化財返還のガイガー・カウンターは、「なぜ・これが・ここに・あるのか?」と文化財の今に至る履歴を問う問題意識であり、文化財に関わる人間としての「倫理観(考古倫理)」である。
2011年の「朝鮮王室儀軌」の「引渡し」によって、宮内庁書陵部の「汚染度」は格段に低下した。
都内には、未だ汚染度が極めて高い「ホット・スポット」が幾つも点在している。
文化財の除染作業である文化財返還運動は、文化財を奪われた人々が奪われた文化財を「取り戻す」プロセスであると同時に、文化財を奪った人々が自らの良心を「取り戻す」プロセスでもある。
世界の各地で、こうした作業に取り組んできた人々、取り組んでいる人々が数多くいることが良く分かる。

アイヌの人々の遺骨及びその副葬品」が返還される手続きが、動き出している。  

「勉強会」で「勉強」する課題は、山積している。
  


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