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柳1922「朝鮮とその芸術 序」 [論文時評]

柳 宗悦 1922 「朝鮮とその芸術 序」、1981『柳 宗悦全集』第6巻、筑摩書房:13-22.

2014年は、柳 宗悦から。

「冷静な学術に志す者だからと云つて、彼に時局の問題と関係がないと誰が云ひ得るのであるか。生命の問題や運命の問題が彼の触れてゐる最も重要な問題ではないか。その問題が目前に具象化されてゐるのである。彼はどうして黙してゐられよう。思索は活きた問題に於て、一層深められる。」(14.)

「冷静な学術に志す者」たちの団体が、「様々な現代政治的問題が絡むこと」や「国政レベルでの事案」を理由に文化財返還問題に向き合うことを拒んでいる。
2014年は、柳に後押しされながら、本問題を巡る思索に一層深く関わることになるだろう。

「私は二三の朝鮮美術史に詳しい人々を知つてゐる。私はいつもそれ等の人々の知識を尊敬するが、同時にそれ等の人々が作者たる民族に対して冷淡なのに驚かされる。その研究は全く自己の知識を満足させるが為の努力であつて、朝鮮の価値を守護し闡明しようとする希願ではあらぬ。況んやその民族の運命が如何にならうが少しも関与する所があらぬ。知識は正しくとも心情は冷たい。かかる人々の中にあつて、私の異る見方は存在すべき積極的理由を持つと考へてゐる。」(17.)

私も二三の朝鮮考古学に詳しい人々を知っている。そして柳と同じような感想を抱いている。まことに残念ながら。
もしそうでないならば、文化財返還問題などはとうの昔に、少なくとも49年前には解決していたはずである。

「日本の同胞よ、剣にて起つものは剣にて亡びると、基督は云つた。至言の至言だ。軍国主義を早く放棄しよう。弱者を虐げる事は日本の名誉にはならぬ。彼等の精神を尊び肉体を保証する事が友誼であると深く覚れよ。他人を卑下する事に何の誇りがあらう。愛する友を持つ事は吾々の名誉だ。だが奴隷視する者を持つ事は吾々の恥辱だ。他人を蔑り卑み虐げる事に少しでも時間を払つてくれるな。弱者に対する優越の快感は動物に一任せよ。吾々は人間らしく活きようではないか。自らの自由を尊重すると共に他人の自由をも尊重しよう。若しも此人倫を踏みつけるなら世界は日本の敵となるだらう。そうなるなら亡びるのは朝鮮ではなくして日本ではないか。」(21.)

見事な予言の文章である。23年後の敗戦どころか、25年後の9条までをも見通していることに驚かざるを得ない。
そしてこの文章が、関東大虐殺が起きる前年に、一人の日本人によって記されたという事実に、震撼とする。

或る人は、私のことを評して「性善説」と述べた。
私は、以下の言葉を贈る。

「日本は未だ人間の心に活ききつてはゐない。然し若い精神的な日本がここに現れて、いつか刃や力の日本を制御し盡す事を信じてゐる。私はかかる日が現はれて、朝鮮と日本との間に心からの友情が交される時の来るのを疑はない。少くとも私は此悦びに向つて不断の努力を献げよう。私は悪が善に捷ちおうせるとは思はない。私は人間の深さを信じ真理の力を信じてゐる。必ずや正しい道が最後の捷利者である事を信じてゐる。又自然の美しい意志がいつか満たされる事を疑はない。又刃よりも愛が絶大な力の所有者である事を疑はない。又は柔かい人情が平和の固い守護者である事をも信じてゐる。よし様々な汚濁の勢ひが蔓らうとも、私は宗教が真に此宇宙を支配する力だと信じてゐる。又芸術が此世を浄め美しくする力だと信じてゐる。争ひは本流を作りはしない。愛に飢ゑる人情が此世の家庭を作るのである。人間の心の底にはどうしても奪ひ得ない情愛の求めがあると私は信じてゐる。」(「朝鮮の友に贈る書」:40.)

 


タグ:文化財返還
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