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千葉2012『勝坂縄文展』 [全方位書評]

千葉 毅 2012 『勝坂縄文展 -平成24年度かながわの遺跡展・巡回展-』展示解説リーフレット

「展示解説リーフレット」の「書評」は、初めてである。
しかし、そうした「評」をしたくなるような魅力に溢れている「書」である。
ありきたりの写真と解説があるだけの「硬式図録」ではなく、手作り感にあふれる何よりも作り手の思いが滲み出ている「軟式図録」である。

展示会場でも、まず入り口で巨大土器と一緒に写真を撮ってくれる。展示を見て帰る頃には、その写真がおしゃれな「ポストカード」になっている。ミュージアム・グッズ売り場などでは手に入らない、その人だけの記念品である。
こんな仕掛けが、あちこちに仕組まれている。

「私たちは、どんな時に「人間臭さ」を感じるのだろうか。
優美に作られたものや、真似できないほどの優れた作品を見たとき、私たちはもちろん感動を覚えることもあるが、時にはあまりにすご過ぎて、別世界のものだと思ってしまうことがある。むしろ、どこか「へたっぴ」だったり、失敗してしまったもの、あるいは失敗を「ゴマかした」ものなんかの方が「人間臭さ」を感じたりしないだろうか。
縄文人のそんな「人間臭さ」「生々しさ」を感じてもらえるような資料を集めてみた。」(13.)

ある意味で「人間臭さ」を排除して成立しているのが、学問の世界である。「論文」で「すご過ぎて」とか「へたっぴ」などと表現すると、すぐさま指導教員から赤ペンである。
ある考古資料について、「上手」とか「下手」とかは誰でも感じていることだろうが、それを学術的に認識し、表現することは至難の業である。だから研究者は、思っていてもそうした領域から遠ざかる。手を出さない。思いを仕舞い込む。
しかし博物館の展示を見に来る市民たちにとって、関心をそそるのは、身近に感じるのは、こうした「人間臭さ」ではないか、そんな思いが出発点にあることがよく分かる。

「最近、ギャル文字にも「うまい」「へた」があるらしいことを聞いた。それらを見分ける自信がまったくない。やはり、その文化の中にいる人間じゃないと評価はできないんだろうか・・・」(13.)

縄文土器とギャル文字を比較対象とする日本初、いや世界初の記述である。(おそらく)

「街頭インタビュー 街で、神奈川県庁で、勝坂遺跡公園で・・・聞きました!!
縄文人に会ったら、何を聞きたい?」(24-26.)
「恋してますか?」
「どうやって仲直りしますか?」

ここでも子供たちの発想は、豊かだ。
私などは、有孔鍔付だの、蜂の巣石だの、敷石住居だの用途不明品の用途を教えてくれといったオヤジ的情けない質問しか思い浮かばない・・・

「2011年3月11日、大津波が東北から関東の太平洋岸を飲み込んだ直後、自らの命を顧みずに、失った家族の写真や位牌などを探しに、かつて自宅のあった場所へ戻った人が多くいた。思い出の写真があったところで空腹が満たされるはずはないが、それがあることで、自分自身のアイデンティティや自らの居場所をなんとかつなぎ止めることができる、との想いからなのだろう。文化の中に生きる人間の本能的な欲求なのかもしれない。
個人にとってそれが写真や位牌であるなら、社会にとってはそれはその地域の歴史、過去の人々の生き様を伝える文化財そのものなのではないか。普段は特段意識をしないでも日々の暮らしに不自由することはない。しかし、ふと自分自身の足元を見つめ、その足跡を確かめたくなるとき、地域の文化財、遺跡が既に失われてしまっていたら、私たちはその欲求を何に求めればいいのだろう。
地域の歴史、足跡を忘れ、現代に生きる人間の欲求だけでその世界を作り上げようとすることが、どれだけの歪みを生じさせるかは、あえて言うまでもないことである。」(34-35.)

しかし、土器を手に持ち、抱えている人々の表情が一様に素晴らしいのは、何故なのだろうか。

「認めよう」と「認めまい」と、ここには確かに「パブリック・アーケオロジー」がある。

2012年12月15日~2013年2月7日@神奈川県立歴史博物館
2013年2月16日~3月20日@相模原市立博物館


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コメント 4

はや

面白そうな展示ですね
著者は「千葉毅」さん?
by はや (2012-12-27 07:27) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

ありがとうございます。
訂正いたしました。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2012-12-27 21:09) 

千葉

遅くなりましたが、「勝坂縄文展」を取り上げてくださり、ありがとうございます。まだまだうまくできていない部分もたくさんありますが、精進していくよう努力します。
*展覧会ウェブからリーフレットをダウンロードできるようにしました。
http://ch.kanagawa-museum.jp/kassaka2012.html
by 千葉 (2013-03-10 15:13) 

伊皿木蟻化(五十嵐彰)

私たちは、<もの>たちが持っている豊かな語りを、いまだに十分代弁できていないように思われます。様々な角度からアプローチを試みる。そのためにも、代弁者としての心構え、思想が問われています。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2013-03-11 20:04) 

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