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西脇2009「中谷治宇二郎の反型式学」 [論文時評]

西脇 対名夫 2009 「中谷治宇二郎の反型式学」『考古学の源流』木村剛朗さん追悼論集刊行会:189-199.

「一形式が選び出されて、それが次第に型式(type)を分けられて行く時、何を分類の標準に置くかと云ふ事は、結局私は一つの主観的問題だと思ふ。」
「分類は結局主観の問題と云つた。果して然らば、この主観を導くには自づと一つの学の立場が決定されるべきである。それを私は観察と云ふ二字で置き替へる。客観的な型(pattern)の観察である。」
という中谷 治宇二郎1929『日本石器時代提要』中の文章を示して、曰く、

「この文脈に最初から素直に追随できる読者は多くないのではあるまいか。一体形態分類は主観的でしかあり得ないと言うのか、それとも客観的なものとなり得ると言うのか。なぜ分類は主観で、観察は客観なのか。筆者もその真意を長らく理解できないでいた。

この謎のような逆転の意味は、結局次のように理解されるであろう。前段の「結局」「主観」というのは「型式」分類についての評価であり、一方「この主観に導く」「学の立場」以降の記述は「様式」決定の説明であると考えられる。」(190.)

端的な説明であり、正にこれ以上でもこれ以下でもないだろう。本論でも図示されている中谷1929第一表・第二表を見れば明らかなように、中谷のいう「型式」とは「形式」である土偶や石斧を更に横方向に細分したものであり、「様式」とは各型式内の型から「推移順序」を考察して得た縦方向の区分単位であるからである。すなわち横方向の区分(型式区分)は主観的であり、縦方向の区分(様式区分)は客観的であるというのである。

「「型式」は弁別によって生じ、「様式」は言わば弁別の断念によって生じる。そして前者が相互の重複を嫌う排他的な範疇を志向するのに対して、「似寄りの型」「他の群との近づき」(同前64頁)の把握を通じて設定される後者には、明瞭な断絶のない「推移」の指標(同前52・57・66頁)としての性格が伴う。」(190.)

こうした理解に基づいて、有名な小林行雄1933「先史考古学に於ける様式問題」中の中谷評については「適切なものとは言い難く」(191.)とする。

そして中谷1929の第一表・第二表は、濱田耕作1922の「共存関係」中の表と「ほとんど同じものとみなされてきた」が、実は似て非なるものであるという。

「筆者の考えでは、中谷の表は濱田の(Ⅰ)や(Ⅱ)のように「並行的事実(parallelism)」(同前)による相対年代学の方法を説明したものではない。それはむしろ「文化的推移の方向を見ようとする」(1929aの57頁)彼の研究の目的がどのように実現されるかを示したものである。」(191.)

こうした考えを裏付けるものとして、中谷1927『注口土器ノ分類ト其ノ地理的分布』における「特殊形」概念を挙げる。

「人工物の複数の属性の間に高い相関関係が見られるとき、その人工物を生み出した「文化」の等時性と等質性が立証される、というこの推論の形式について、筆者はいわゆる日本考古学の分野に明らかな類例を知らない。この主張を裏返せば「特殊形」としてのまとまりを見せない雑多な遺物を生み出した「文化」は等時でも等質でもないということになり、時間軸上のある一点を取り上げたときには「特殊形」の分布する均質な「文化圏」の周囲に、遺物の斉一性の劣った「文化」的に無秩序な世界が広がっていることを意味する。」(192.)

そして「型式」概念の不均等さ、非安定性を示唆するものとして、「『提要』「第一表」「第二表」の「様式」列の中に現れる奇妙な隙間」が指摘される。

「従ってこの隙間は年代学上のものでなく形態学上のもの―彼の考えた「様式推移」(同前66頁)の過程に文字通りの隙間が含まれていることを表現したものと解するほかない。B「型式」の土偶の「様式」2と3の間にある隙間は、そこに過渡的な形態が介在するが数は少なく、「様式」として認定できるほど「普遍的」にならなかった、という中谷の理解を反映したものと考えられる。」(192-3.)

「隙間」ならば濱田1922にもあるわけで、中谷の「様式推移」を示すものは、むしろ「様式欠落の不在」言い換えれば飛躍の不在ではないかと考えるのだが。

全体を通しての気掛かりは、中谷の「反型式学」が、「十分意識的に論じられる機会もないまま今日に至った「型式学」」(198.)、時空間軸の縦横に均等に区切られた「編年表」ではもはや表現できないと見通しうる相手に対して、どのような代替的なアプローチを示すことができるのかという点にある。


タグ:型式
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