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文化財返還問題・日韓共同シンポジウム [研究集会]

「11・20 文化財返還問題・日韓共同シンポジウム
            -朝鮮王室儀軌・利川五重石塔返還問題を中心に-」

日時:2010年11月20日(土)14時~17時半
場所:韓国YMCAアジア青少年センター スペースYホール
主催:(韓国側)朝鮮王室儀軌還収委員会・利川五重石塔還収委員会
    (日本側)韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議

<第1部> 報告
       Ⅰ「朝鮮王室儀軌」返還運動の経緯と課題
                  慧門(朝鮮王室儀軌還収委員会)
       Ⅱ「利川五重石塔」日本搬出に至る政治史的な背景と経緯
                  朴菖煕(利川五重石塔還収委員会)
       Ⅲ「併合100年」と流出文化財問題 -日本側からみた問題点と解決への課題-
                  菊池英昭(韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議)
 パンソリ(パク・ミョンオン、カン・ジウォン)
<第2部>日韓国会議員による意見交換
       (韓国側) 利範観(ハンナラ党)、朴宣映(自由先進党)
       (日本側) 石毛えい子(民主党)、笠井亮(共産党) 
<第3部>解決に向けての討論・提起

「日本の大学や研究機関に所属する研究者らは、この間、併合条約や日韓会談会議録を調査したり、批判する作業には熱心だったが、足元の自らの大学や研究機関が所蔵する韓国・朝鮮文化財の調査や検証、公開・返還への努力を怠ってきたように見える。対象となる文化財は、日本国内にいまも数多く存在する。日本政府を批判するのと同じ鋭さで、自らの職場や籍を置くアカデミズムの世界が、この100年間何を行ってきたのか?という過去を検証し、それと向き合ってきたのか? 疑問を感じる。その結果、1965年の日韓条約・文化財協定からもすでに45年がたつが、文化財返還につながるはかばかしい成果といえるものが乏しい。日本側の取り組みの不十分さを認め、率直かつ深刻に反省しなければならない。
遅まきながら、いくつか動きだしているところもある。今年5月に開催された日本考古学協会第76回総会でも、同協会として「不法に収奪された考古資料が、本来あるべき場所に戻ることができるように、該当資料に関する所蔵調査の専門委員会を立ち上げ、所蔵組織における入手経緯および保管状況を確認するように各組織に働きかけること。こうした問題解決にむけての方向性を示すためにも、何らかの声明ないしは提言を発表すること」が提案された(理事会では結論保留)。韓国・利川市と姉妹都市の関係にある愛知県瀬戸市議会でも、今年9月に利川・五重石塔の返還運動に協力すべきでないかという質疑が行われている。今日のシンポジウムもそうした試みのひとつである。」(韓国・朝鮮文化財返還問題を考える連絡会議2010「「併合100年」と流出文化財問題 -日本側からみた問題点と解決への課題-」『11・20文化財返還問題・日韓共同シンポジウム 資料集』:26.)

引用文前半で記されている状況、全く反論できない。情けない限りだが、こうした現実を直視して前進するしかない。
そして以下6点の提言がなされた。

「今回の日本政府による「朝鮮王室儀軌」等1205点の返還を一歩前進と積極的に評価し、歓迎する。「完全かつ最終的に解決済み」としてこれまで一切の返還要求を拒否してきた日本政府が、「引渡し」という表現ながら「返還」に応じたことは画期的である。その評価を踏まえて、「新しい100年」に向けて、いくつかの提言をしたい。
1) 日本政府は、今回の「朝鮮王室儀軌」等の返還だけで終わらせず、さらに積極的に国立博物館や各大学が所蔵する韓国・朝鮮文化財の調査と返還に取り組むこと。また、民間所有の文化財の返還も呼びかけること。
2) 具体的に韓国・朝鮮文化財の返還を促進するため、日本と韓国・朝鮮およびユネスコなどの専門家による調査・諮問委員会を設置し、文化財の共同調査を進め、共同のデータベースを構築するとともに、返還問題についての基本的な考え方をまとめ、公表すること。
3) 各博物館・美術館・大学・民間の文化財所蔵者は進んで韓国・朝鮮文化財の情報を公開し、返還に協力すること。
4) 日本における考古学・博物館学・美術史学・文献学・近現代史学・図書館学などの関連する各学会は、文化財返還に向けて、関係する組織に対して所蔵資料の現状調査・入手経緯の解明・情報公開を積極的に働きかけること。
5) 専門家だけでなく、学生や教師、市民、宗教者らも参加・協力して幅広く韓国・朝鮮文化財の調査を進め、その意味や歴史について学び合うよう呼びかけること。
6) 政府・国会は、韓国・朝鮮文化財の調査と返還を促進するため、必要な立法措置を行うこと。地方自治体にも協力を呼びかけること。

そして以下のようなコメントを述べた。
(コメントというから、てっきり会場から発言するのだとばっかり思っていたのだが、いきなり檀上であせった。)

「第1に、植民地主義がもたらした略奪文化財という負債は、必ず返済しなくてはならないということです。そのことが、真の国際交流をもたらすということです。負債(liability)は、返済する義務(responsibility)があるということを、あらゆる人が確認しなければなりません。
考古学はモノと場の関係を研究する学問ですが、私は考古学の基本は「あるべきモノは、あるべき場へ」という原則であると考えています。
第2に、何を返還するか、どこまでが略奪でどこからは略奪ではないのかといった、合法(legal)と非合法(illegal)の線引きに関する議論は、とかく非生産的なものに成りがちであるということです。何を返すべきかについては、最終的には所有者の倫理観・モラルに基づくものです。不法に入手した文化財、すなわち盗品の所有、盗んできたモノを持っているということ自体が、恥ずべきことである、という共通認識、これは人間として当たり前の最低限のモラルと考えますが、こうした認識が当たり前となるように、私たちは努力を重ねなくてはなりません。そのためにも、私たちは博物館や美術館に展示してある資料が如何にしてそこにあるのかといった入手の経緯について、無関心でいることはできなくなります。
第3に、仮に不法に入手したものであろうと長年所有しあるいは大切に保管していれば、そこに新たな所有の権利が生じるという意見があります。あるいは優れた文化財というものは、生み出された国(nationality)という領域に限定されることなく、広く人類文化の遺産として普遍的な観点から位置づけるべきであるという意見があります。これはどちらも一理ありますが、何よりも大切なのは、こうした議論の前提として今ある不自然な状態を解消してから、こうした議論がなされるべきであるということです。すなわち本来の所有者のもとに返還された上で、こうした事柄について改めて対話・協議がなされるべきであり、現在の不自然な状態を正当化するためにこうした論理が持ち出されるのは、事柄の順序が間違っているということを指摘したいと思います。」

シンポジウムの半ばでは、太鼓の伴奏による朝鮮の民族芸能であるパンソリが朗々と演じられた。

「時は西暦1918年10月 故郷を離れ 漢陽(ソウル)に運ばれ 仁川港に引き摺り 万里他郷日本へと送られた 先祖の魂が宿る石塔 どうして涙を流せずにいられようか 遥か彼方の 故郷を仰ぎ 頭を垂れる 生きて利川の土を踏めるであろうか
飛ぶ鳥よ 私の心を察してくれるなら 利川の地に飛び 涙にくれるこの恨(ハン)を 故郷に伝えておくれ
歴史は流れ 日韓両国間の過去100年の暗い歴史の傷跡を 今や克服し 両国の友好と協力の象徴として 利川五重の石塔が故郷の地に帰れる事を 心より願うものである」
(パンソリ 利川五重の石塔帰郷を願い(要約) 訳:姜 徳煕)

こうしたことこそが、真の「国際交流」ではないだろうか。
対して、我が「日本考古学」はどうだろうか。

日本考古学協会2010年9月理事会議事録
報告第67号 国際交流委員会報告
「① 6月理事会において国際交流委員会に検討が要請された第76回総会時の五十嵐彰会員からの提言については、当委員会の目的と外れる事案であり、諸外国の例からも一学会が扱うべき事案ではなく国政レベルでの事案であることから、当委員会は検討する任ではないこと。」

「諸外国の例」とは、具体的に何を指すのか不明だが、アメリカのエール大学がペルーのマチュピチュ遺跡出土資料の返還に合意したことなのか、それともメトロポリタン美術館がツタンカーメン副葬品をエジプトに返還すると発表したことなのか。
どのような議論を経てこのような結論が導かれたのか知る由もないのだが、何よりも「文化財返還問題」について「一学会の扱うべき事案ではなく」としたことについては、一般社団法人として日本考古学協会の社会的役割を軽視したものとされるべきだろう。

旧石器研究でもアジア地域での国際交流が活発化している。
縄紋時代の集落研究でも列島と半島との国際交流が盛んに行われている。
弥生・古墳以降は、言うまでもない。
しかしそうした学術上の「国際交流」というのは、特に韓国・朝鮮・中国の研究者との「国際交流」と称される活動がなされる時に、「文化財返還問題」については「私は検討する任ではない」とか「私が扱うべき事案ではない」とした上で行われるとしたら、それは「名目」だけの「国際交流」であり、本当の意味での「国際交流」と言えないのではないか。

私たちは、「国際交流」という言葉の持つ真の意味を考えるべきである。


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伊皿木蟻化(五十嵐彰)

本記事シンポジウムの参加記が、『考古学研究』に掲載されました。
森本和男2011年3月「文化財返還問題・日韓共同シンポジウム参加記」『考古学研究』第57巻 第4号(通巻228号):11-13.
「日本と周辺諸国との間で、文化財についての歴史認識にズレがあるというよりも、単に日本人が歴史事実を直視してこなかったのではなかろうか。」(13.)
全くその通りだと思います。
問われているのは、私たち日本人は、これからも文化財返還問題を直視しようとしないのか、それとも直視しようとするのかという私たち自らの判断ではないでしょうか。
by 伊皿木蟻化(五十嵐彰) (2011-04-04 20:27) 

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