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異層間接合 [石器研究]

「ローム層中の遺物は、拡散して分布しており、時に1m以上の深度幅をもって接合することもある。これをどのように分けてきたかについての問題は、五十嵐彰氏により明確に概念化されたが、野川遺跡の発掘以来、ローム層の調査者にとっては常に念頭にあった問題でもある。誰が行っても同じ結論になるような、文化層分離の手続きが、方法としてこれまで確立できなかったのは、本書で西井・小菅両氏が、遺跡によって拡散の度合いが異なることを指摘するように、遺跡ごとに埋没後変化や遺跡形成のプロセスに差があることが認識されながら、このことを分離の手続きにうまく反映できなかったことも理由のひとつに考えられる。」(下原裕司2008「新刊紹介 後期旧石器時代の成立と古環境復元」『東京の遺跡』第89号:1058.)

「理由のひとつ」? それでは、他の理由とは?
「文化層分離の手続きが、方法としてこれまで確立できなかったのは」、「遺跡によって拡散の度合いが異なる」とか「遺跡ごとに埋没後変化や遺跡形成のプロセスに差があること」を「分離の手続きにうまく反映できなかったこと」といった皮相的なことではなく、「ローム層」という自然層中に分布する資料群を区分した「旧石器的文化層」と人為層によって区分される「一般的文化層」という文化層概念の根本的な違いを認識することがなかったという根本的な理由による(五十嵐2000e「「文化層」概念の検討」)。

もし仮にこうした事柄が「野川遺跡の発掘以来、ローム層の調査者にとっては常に念頭にあった問題」だとしたら、以下のような記述がなされるはずもないのである。

「2008年4月末に241例1068点の接合を確認した時点で、石器集中部の接合関係の平面分布を検討したところ、出土層準の異なる石器集中部の間で接合関係が認められた。いうまでもなく、石器の型式、層位、接合は、それぞれ性質や内容の異なる情報をもつ。しかし、この3つの軸を統合して合理的に説明する方法を、現時点でもちあわせていない。本遺跡における接合の結果は、「異なる層準から出土する石器群は時期が異なる」「接合関係にある石器群は時期が同じ」との前提が、ともに成り立つわけではないことを示す。いずれも石器集中部を単位とした文化層の設定や、石器の型式も含めた編年の前提であるため、事は重大である。」(長沼正樹・野口 淳ほか2008「東京都下原・富士見町遺跡の旧石器接合資料」『日本第四紀学会講演要旨集』第38号:84.)

元は一つであったものが分離し、異なる場に存在する相互が再び「接合」することによって、異なる場に残された他の痕跡群をも含めて「同時期」とする。
重なり合う層(累重関係)に含まれる「もの」相互は、「異時期」とする。
これこそが、「野川遺跡の発掘以来、ローム層の調査者にとっては常に念頭にあった」前提である。それが「成り立つわけではない」というのだから、まさに「事は重大である。」

「70年代以降に成立した「旧石器的文化層」は、自然層中の層序区分とはかかわりなく存在し、研究者が同時期と判断して区分された資料群である。その判断は、接合事象や母岩識別など遺物の有する内包的属性と遺物の空間的分布状態である状況的属性という異なる区分原理を統合することによって成立している。石器資料のみで相対的な時期を特定することには一定の限界があり、異なる時期の資料群が垂直方向で重複する場合には、全点にわたる明確な区分は困難である。」(五十嵐 彰2000e「「文化層」概念の検討」『旧石器考古学』第60号:53.)

繰り返すが、問題の所在は「手続きにうまく反映」できるとかできないといった次元ではなく、旧石器的「文化層」概念という原理認識にあるといったことを述べたのは、もう今から8年も前の、そう、捏造発覚直前のことだったのだが。

長沼・野口ほか2008において提起された「重大な事態」を解決するには、「包む-包まれる関係」という「鈴木・林テーゼ」の理解が不可欠となる(五十嵐2006d「遺構論、そして考古時間論」)。
「異なる層準」すなわち累重である「加重複」という「場」に含まれる「もの」相互の時間関係は確定し得ない。故に「異なる層準から出土する石器群(より正確に表現すれば「石器」をはじめとする「もの」資料)は、時期が異なる」とは限らない、ということである。
同じようなことは、縄紋以降に認められる遺構切り合いである「減重複」の場合にも該当する。

私たちの課題は、「(型式、層位、接合という)3つの軸を統合して合理的に説明する方法」を開拓することである。


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