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#21:2008-06-11 [セミナー]

今回の2AS#21は、懸案の「穴問題(4)」である。

始めに穴と影の相互関係について、ある私案を提示した。
光が当たっている場所は、地面を盛り上げた「プラス遺構」(盛土とか版築など)に対比できる。
光が当たらない場所、影は、地面を掘り下げた「マイナス遺構」(土抗とか竪穴とか所謂「穴ぼこ」)に対比できる。

ここから先が問題である。ガンガン反論を受けた。無い知恵を振り絞って応答する。

光と影は、ある意味で「明るい場所」と「暗い場所」とも言いうる相対的な関係である。
しかしプラス遺構とマイナス遺構、「山」と「穴」は、ある絶対的な基準、すなわちある地表面を境に(ゼロ値として)、そこより上方をプラスに、下方をマイナスとする位置関係にある。

穴を掘る、マイナス遺構を形成するということは、とりもなおさず、本来は平らな地表面を穿ち、そこに存在していた物質(土壌など)を除去して、空間を作り出すということである(もちろん圧力を加えて凹ませるという場合も考えられるが)。すなわち、ある物質の移動が必然的に伴う。そしてその物質が地表面(フラットな平面=ゼロ値)に積み重なることで、プラス遺構が形成される。イメージとしては、深い発掘区の底からベルトコンベヤーに乗せられた排土が運ばれて、次々と山状に積み重なっていく感じである。
マイナス遺構の形成、すなわちプラス遺構の形成である。
こうした相互関係は、光と影には認め難い。

何よりも、光と影は、前回の「穴問題(3)」でも記したように、光源と遮蔽物という2者が存立条件である点に最も大きな意味がある。光源と遮蔽物という1次的な存在によって、生み出される2次的な存在である影。

こうして、一見、欠如体という共通の性格から、相似た存在に思われる「影」と「穴」が、実は「似て非なるもの」であることがおぼろげながら、見えてきた。
そして行きつ戻りつ紆余曲折の末に判ってきたのは、考古学的な穴である「遺構」という名の研究対象の特異性である。「穴」である遺構と「もの」である遺物との、「似ても似つかぬ」相互関係である。

以前、遺構を穴に限定した定義を提示した(五十嵐2004f「痕跡連鎖構造」)。その時は、実のところ余り自信はなく、恐る恐るという感じだったのだが、今こうして「穴問題」を経由して言えることは、考古学的穴は、やはり特別な存在であるということであった。
そして穴である遺構と<もの>である遺物・部材との間には、穴と影との狭間よりも深くて広い懸隔(存在論的位相の違い)があることも明らかになりつつある。
手にとって確かめられる確かな実体のように思われる穴である遺構。実はそうした思い込みは、遺構という穴が穿たれている土壌という物質に起因する一面であり、「穴」の本質は決して手で触ることのできない「欠如」、「無」なのである。
取り出せる<もの>としての遺物や部材、そして取り出すことのできないというより取り出した結果としての考古学的な「穴」である遺構。
「穴」を取り出そうとして取り出したと思ってみたら、そこに見出されるのは「新たな穴」であったという「影」を追うような事柄。
包むものとしての遺構と包まれるものとしての遺物・部材。

第2考古学という訳も判らぬそして得体の知れない相手を探るために、深い穴に降りていった。その道筋で、多くの仲間と知り合うことができた。意見の違いも齟齬もあった。しかし訳の判らぬ厄介な相手を見極めたい、考古学とは何か、何のために存在しているのか、私たちはなぜ考古学をしているのか、そうした本質を突き詰めたいという意思はお互いに確認できたつもりである。多くのことを学ぶことができた。参加された全ての人たちに感謝したい。
取りあえず、今回で「第1次 虎の穴」は終了した。
これからどのような道程を歩むことになるのか、次なるステージがどのような形態を見せるのか、これまた誰にも予測できない。


タグ:穴と影
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