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<遺跡>の存立基盤とは [遺跡問題]

近くの小学校で行われた「作品展」なるイベントに出かけたことがあった。会場の一角には、「遺跡」と題された作品群があった。概ね崩れかけた家屋やピラミッドのようなものに砂やら泥をこすりつけたようなイメージで構成されていた。これが私たちの抱いている一般的な<遺跡>イメージなのであろう。ある複雑な思いをもって、そうした作品を鑑賞することになった。

何故か。
それは、私たちが<遺跡>問題を通じて、「<遺跡>の本質的な無根拠さ」を確認してしまったからである。
そしてその結果として、私たちの<遺跡>に関する「常識は効力」を失ってしまっているからである。

それでは、そうした<遺跡>なるものは、いったいどのような存在なのだろうか?
そして、今後どのようなものとしてイメージされていくのだろうか?

考えるに、<遺跡>は常に「非遺跡」すなわち「遺跡ならざる場所」「遺跡外」という存在なしには存在し得ない存在なのだろう。しかし、はたして例えば東京23区内において「<遺跡>ならざる場所」などというものが存在しうるだろうか。あるいは関東平野において。
問題は、どこからどこまでが<遺跡>で、どこが<遺跡>ではないといった事柄に拘泥することではないだろう。もちろん行政的にはそうした作業が必要となる場面もあるであろうが(そしてそれが日常的業務となっている立場の人々もいるだろうが)、それにしてもそうした状況において問題となるのはあくまでも「包蔵地」であり、<遺跡>ではない。
ある特定の範囲を括り出す線の種類も、本来は様々であるはずだし、括り出された内部も決して均質でないのは、考古学的な<遺跡>を考えれば、誰でも首肯せざるを得ないであろう。それにも関わらず、明確な線で「きっちり」と一様に線引きすることを要請するのが、行政的な「包蔵地」なのである。

むしろ考古学的な<遺跡>問題が提起する本質的な問題は、私たちが何をもって<遺跡>とみなしているのか、あるいはどのような根拠をもって<遺跡>ではないとしているのかという、私たちの「まなざし」を明らかにすることである。

言い換えれば、線の引き方もさることながら、なぜ線を引くのかという点を論じることがより重要であるということである。
<遺跡>をあらかじめ存在する何か実体的な存在として考え、それらを私たちが地中から発見するととらえるのではなく、私たちの<遺跡>を巡る言説実践が「遺跡化された土地」を作り出すのである。

しかしそうした認識に立った途端、「巨大で奇怪な謎の群生体」を造形物として表現せよという課題の前に、逡巡せざるを得ないし、立ちすくむ自らを見出さざるを得なくなる。仮に3Dによるバーチャル・リアリティ技術をいかに駆使したとしても。


タグ:<遺跡>
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アヨアン・イゴカー

 鈴木公雄著『考古学入門』(東京大学出版会)を読み始めました。あまりに無知なまま、感想を書くのも失礼と思いましたので。
 今日現在の感想を申し上げますと、考古学とは過去の文化人類学ではないでしょうか。現在、或いはごく近年に起こったこと、起こりつつあることを、それも人間に関係したことを研究するのが、文化人類学なのでしょうか。
 この本を読んでいると、考古学にもいろいろな種類があり、それも定説がないことが分かります。旧石器時代(この区分も固定されたものではない)の考古学、新石器時代以降の考古学、歴史考古学、近世考古学、古典考古学、宗教考古学、主題考古学、環境考古学、動物考古学、植物考古学、実験考古学、民族考古学・・・ここまでくると、考古学はどのような冠をつけても成立する学問である気がしてきます。宇宙考古学、物理考古学、化学考古学・・・主題考古学と言う分野になると、何でも主題になりうる訳で、考古学とは主題考古学だと言うことも可能ではないでしょうか。
 
by アヨアン・イゴカー (2008-04-02 00:56) 

五十嵐彰(伊皿木蟻化)

かつてどこかに書いたかとも思いますが、「考古学研究にたずさわる個々の研究者が、個々人の考古学研究の方法や全体的な枠組みを提示していくこと」(鈴木公雄1988『考古学入門』:ii.)というのが、今となっては「考古学の体系化を考える筆者にとって、はげましであるとともに叱責の言葉でもあった」(同:vii.)ということになりました。
全くヒトというものは、ヒトからヒトへ、師とか弟子とか関係なく、思いがけない形で、あるヒトの思いが他のヒトに受け継がれ、結果として「痕跡が連鎖する」のだと思います。
by 五十嵐彰(伊皿木蟻化) (2008-04-02 20:40) 

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