SSブログ

酸素同位体ステージ3の考古学 [研究集会]

「酸素同位体ステージ3の考古学」研究委員会準備会 第1回研究集会
日時:2007年10月13日(日) 13:00~17:00
場所:首都大学東京 南大沢キャンパス 5号館 142教室

日本第四紀学会の研究委員会として標記のワーキング・グループを設置する準備が進んでいるという。その準備会世話人の方からお誘いを受け、研究集会に参加した。
酸素同位体ステージ3(OIS3)とは、深海底コアから得られる有孔虫化石の酸素同位体の比率によって示される気候変動に基づく区分であり、おおよそ5.9~2.4万年前、すなわち日本列島の旧石器編年に置き換えれば中期から後期旧石器への移り変わる時期に相当する(レンフルー&バーン2007:130.にOISの挿図がある)。

「旧石器時代の前・後期の境界は、一応約3万年前(WATANABE and SERIZAWA, 1981)とされ、1965年頃からは10万年前あたりまでの前期旧石器に関する議論が続いていたが、1980年以降、宮城県内の数か所で、それらよりは確実に古期の石器が中部更新統から発見された。大陸との接続関係から見ると、中期更新世末に関東地方の下末吉層に代表される下末吉海進があって、この時、日本列島は大陸から隔離されたものと考えられる。石器を産出した中部更新統はそれ以前の堆積物で、その石器は下末吉海進より後の石器とともに、前期旧石器と呼んでよいのかという疑問も生じるが、出土資料はまだ少なく、今後、考古学の分野で慎重に検討されるものと期待する。」(中川久夫・庄子貞雄・若生達夫・梶原 洋・竹内貞子1989「シンポジウム“東アジアにおける中・後期更新世の人類と環境”について」『第四紀研究』第28巻 第4号、“東アジアにおける中・後期更新世の人類と環境”特集号:215.)

1988年8月21日に宮城県仙台市東北大学教養部で開催された第四紀学会のシンポジウムは、地形・土壌・古地磁気・熱ルミネッセンス・重鉱物組成・脂質分析・テフラ年代・残留磁気・植物珪酸体・プラントオパール・ESR年代と当時の総力を結集したイベントであり、さらに日本国際交流基金・ソビエト科学アカデミー・中国科学院古脊椎動物与古人類研究所・香港中文大学中国文化研究所・嶺南大学校博物館など東アジア諸地域の研究者を招待した国際的な研究集会でもあった(本シンポジウムについては【05-10-29】でも触れた)。

しかるに、見抜けなかった。
むしろ、お墨付きを与える結果となってしまった。

「大陸と日本の前期旧石器の関係はまだ判明していない。東日本産の中期更新世の石器を、とりあえずA・B・Cの3群にわけると、A群は中国の周口店産の若いものと類似点があり、B・C群はシベリア・中央アジアのムステリアンの中に近縁なものが求められる。日本でのみかけの文化の進展は、大陸での進展の諸段階のものが、順次移入されたものと考えられる。人類の渡来は1回だけでなく、幾回もあったのであろう。」(「“東アジアにおける中・後期更新世の人類と環境”:総合討論」司会:中川久夫・若生達夫・庄子貞雄、文責 中川久夫:344.)

最大の要因は、「今後、考古学の分野で慎重に検討されるものと期待」されていたにも関わらず、結局、その期待に応えることができなかったことに尽きる。
であるから、現在なさなければならないのは、「考古学の分野で慎重に検討」することだろう。
何を?

「図92 日本の前期旧石器時代遺跡(主要な文献を掲載、不確実な遺跡は除外)
1.金取(菊地ほか1985) 2.座散乱木(石器文化談話会1983) 3.西九十九沢(東北歴史資料館1985, 以下No.16まで同文献) 5.三太郎山B 6.三太郎山A 7.宮城平 8.朴木欠B 9.朴木欠C 10.安沢 11.村山 12.馬場壇A 13.馬場壇C 14.馬場壇D 15.浦越北 16.岩出山牧場 17.薬莢山A(鎌田1980, 以下No.20まで同文献) 18.薬莢山C 19.薬莢山E 20.鹿原A 21.中峯C(宮城県教委1985) 22.金谷(岡村・鎌田1980) 23.除D(東北歴史資料館1981) 24.大原B(同前) 25.志引(鎌田編1984, 以下No.28まで同文献) 26.後楽東 27.屋敷 28.多賀城政庁 29.長岫 30.青葉山B(須藤ほか1985) 31.北前(仙台市教委1982) 32.山田上ノ台(仙台市教委1981) 33.明神山(加藤・安彦1973) 34.富山(寒河江工高1970) 35.陣ヶ峰(寒河江工高1969) 36.庚申山(加藤1970) 37.長岡山(寒河江工高1970) 38.大山(同前) 39.上屋地B(加藤1970) 40.不二山(芹沢1960) 41.権現山(MARINGER1956) 42. 桐原 43.岩宿山寺山 44.星野第1地点(芹沢編1966) 45.星野第3地点(同前) 46.加生沢(紅村ほか1968) 47.西八木(本報告書) 48.早水台(芹沢1965) 49.福井洞穴(鎌木・芹沢1967)」(岡村道雄1987「日本前期旧石器研究の到達点」『国立歴史民俗博物館研究報告』第13集、明石市西八木海岸の発掘調査:237.)

少なくとも1987年の時点で「確実」としてリストアップされた全49資料のうち、No.2~32までの31資料を除いた18資料を「慎重に検討」せずに、日本列島における「酸素同位体ステージ3の考古学」を語ることはできるのだろうか。
研究集会の場においては、日本列島において立川ローム10層を遡る確実な資料は存在しないことが前提とされていたような雰囲気であったが。

お二方の研究発表が終わった後に、出席者全員に対して意見表明が求められた際に、岡村リストNo.34 富山についてのみ「焦眉の課題」として言及しておいた(岡村リストについては、【05-10-01】でも触れた)。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0