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レンフルー&バーン(第3章) [全方位書評]

第3章 どこに ―遺跡と遺構の踏査と発掘 : 75-120.
3. Where?  Survey and Excavation of Sites and Features

「こうした手続きは、一般に研究デザインの立案と呼ばれ、大きく見て4つの段階がある。
1.戦略の策定:特定の問題を解決するための、または仮説やアイディアを検証するための研究戦略を練る。
2.証拠収集と記録:アイディアを検証するために証拠を集め記録する。たいていの場合、専門家からなるチームを組織し、フィールドワークを実施するという方法が採られる。
3.整理と分析:証拠を整理・分析し、それについての解釈を元のアイディアに照らして検証する。
4.公刊:成果を論文や本などの形で出版する。」(75.)

こうした文章を読んで、すぐさま想起されるのは、同じような事柄について述べられている「日本考古学」の諸段階である。

「考古学の研究は次のような諸段階を経て進行する。
 第1段階 問題の設定
 第2段階 資料の収集
 第3段階 資料の予備的な加工ー資料の分析と類型化、時間・空間その他の軸にそう整序
 第4段階 資料の解釈と体系的脈絡づけ」
(横山浩一1985「総論 -日本考古学の特質」『岩波講座 日本考古学 1研究の方法』:10.)

一見、殆ど違いがないようにも思われる。しかし仔細に検討すると重要な違いが、まさに「日本考古学の特質」と言いうるものが表出していることが判る。
前半の1・2は、ほぼ同じである。異なってくるのは、後半の3・4に至ってである。前者の3「整理と分析」に相当するのが、後者の3と4であり、「整理と分析、解釈の検証」がそれぞれ3「分析と類型化」、4「解釈と脈絡づけ」に分割されている。特に、後者の3(資料の予備的な加工)において「時間・空間の軸に整序」なる文言が挿入されてそれなりの意味づけがなされていることこそが、「日本考古学の特質」である。そして前者において4「公刊」という最終段階は、残念ながら後者では見当たらない。本件に関連する問題は、内外を問わない。
「 また許されざるべきことではあるが、成果の公刊されないケースも実によく見受けられる(第14章)。」(75.)
要は、そうした問題を正面から直視し得ているかどうかである。

「これまでフィールドワークというと、ただ単に遺跡を発見し、それを発掘することであると見られてきた。今でも遺跡とその発掘が一番重要であることに変わりはないけれども、フィールドワークの対象は景観全体へと広げられ、発掘調査に加えて(またはその代わりに)遺跡の表面調査もその中に含められるようになってきている。考古学者は、人間による環境の開発について貴重な情報を提供してくれる「オフ・サイト」ないしは「ノン・サイト」というものには、遺物の散布地から耕作地や地境といった遺構まで多くの種類があるということを認識するようになった。今や考古学のフィールドワークでは、地域的な踏査を軸にして景観全体について研究することが中心となっている。」(75-76.)

<遺跡>とはされなかった場所(遺物の散布密度が低いところ)に注目する「オフ・サイト」(<遺跡>外)ないしは「ノン・サイト」(非<遺跡>)という考え方が紹介されている。<遺跡>内にのみ目を向け、<遺跡>外についてはなかったことにする姿勢からすれば、そこには大きな違いがある。しかし所詮は、「オン」があっての「オフ」である。そこにはやはり依然として、「オン・サイト」、すなわち区切られる実体的な<遺跡>イメージというものが想定されていることを指摘せざるを得ない。

ある踏査プロジェクトに関連して「「遺跡」という概念自体も議論された」(78.)ことが紹介されているが、どのような議論がなされ、その結果どのような結論が得られたのかについて詳細は述べられていない。

「記録保存」という名目で開発を前提とした「事前調査」が大多数を占める「日本考古学」の中で、日々その「事前調査」という営為に携わっていると、野外調査イコール発掘というように考えがちであるが、決してそうではないということを思い起こさせてくれる。
発掘に至る以前においてなされる文献探査、地名・古地図の検討(77.)、表面採集(78-79.93-97.)、サンプリング戦略に基づく試掘調査(80-81.)、空中探査(83-90.)、地理情報システム(91-93.)、リモート・センシング(98-109.)ときて、ようやく発掘である。

発掘の項目(110-119.)では、目的、層位学、方法、収集と記録、処理と分類、型式学について述べられる。層位学における「地層累重の法則」を述べる箇所では、五十嵐2006d「遺構論、そして考古時間論」において「鈴木-林テーゼ」として述べた事柄が明確に述べられている。

「ここでは、地層累重の法則は堆積の順序についてのことだけであって、様々な層から出土する資料の年代にまでは適用できないということに注意しなくてはならない。確かに下層に包含されている遺物は、上層のものよりも古いのが普通であるが、考古学者は単純にそのように想定してはならない。」(110.)

詳細な説明は、「編年」を論じる第4章でなされる。


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