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2007a 「<遺跡>問題」 [拙文自評]

五十嵐 2007a 「<遺跡>問題 -近現代考古学が浮かび上がらせるもの-」
『近世・近現代考古学入門 -「新しい時代の考古学」の方法と実践-』
鈴木公雄ゼミナール編、慶應義塾大学出版会:243-259.

一時は離脱の危機にあった論文集が、ようやく世に出た。

そもそもの始まりは、昨年の春に『近世・近現代考古学の方法 -歴史考古学を学ぶ人のために-(仮題)』という、どこかで見たような副題を有する「出版計画案」なる文書をもらい、その執筆予定者の欄に自分の名前が記されているのを見いだした時である。とりあえず応諾の意を伝えたが、数ヵ月後に出版社から「ご寄稿のお願い」という文書が送付されて驚いた。そこには『江戸から昭和の考古学 -歴史考古学の理論と実践-』(仮題)という新たな題名が記されていた。
う~ん、これでは書けない。早速、編集担当にこのままでは執筆が困難である旨をメイルにて通知した。その秋に『近世・近現代考古学入門 -方法と実践-』というタイトルに差し戻す旨の通知があった。よかった~。そして最終的には、上記のような題名になったようである。

これまたどこかで見たような副題だな、と思っていたら、何と今から10年以上も前に友人と初めて近現代考古学に関する「現状と課題」を『考古学研究』に投稿したときのタイトルであった(五十嵐・阪本1996「近現代考古学の現状と課題 -「新しい時代」の考古学をめぐって-」『考古学研究』第43巻第2号)。
このときもいろいろあった。これも少し裏話しを紹介すると、当初の論題は、副題になった「新しい時代の考古学をめぐって」であった。これは、本書(4.)にも再録されている鈴木1988の文言になぞらえてある種の思いを込めて採用したものであったが、「これでは、「新しい時代」としてなされる考古学なのか、「新しい時代」を対象とした考古学なのか紛らわしい」との査読意見が付され、やむなくサブタイトルとメインタイトルを入れ換えたのであった。

<遺跡>問題は、第2考古学を宣言した直接的な要因ともなった主題である。五十嵐2004b「近現代考古学認識論」において「遺跡概念」にまつわる問題を初めて記し、五十嵐2005a「遺跡地図論」で具体的な問題について考えた。ブログではWACへのエントリーを控えていた【05-08-25】から【05-09-26】まで「<遺跡>問題」と題して考えている事柄を記し、【06-01-10】から【06-01-27】までは「遺跡とは」として、その後の考えを記した。その間、WAC2006にて発表し【06-01-18】、今回ようやく活字となって陽の目を見た次第である。

これで、<遺跡>問題研究会の会長?としての職責をひとまず果たすことができた。

しかし腰帯に大きな活字で記されたフレーズ「「古い時代」だけが考古学じゃない!」には、引っ掛かる。「「新しい時代」も考古学だ!」とか「新しい時代」こそが考古学だ!」と覇を争うのではなく、何故「古い時代」だけが考古学であると思われてきたのか、あるいは今もって思われているのか、その要因と構造を明らかにし、私たちのそうした認識過程を変革していくことこそが、「新しい時代の考古学」に求められていることではないか、と。それこそが「21世紀の考古学の大きな方法的課題として考えられねばならない」(鈴木2005:腰帯裏側)の意味だと思う。


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コメント 5

h

なぜその題名では「書けない」のでしょうか?
by h (2007-10-06 09:27) 

五十嵐彰

私が近現代考古学という言葉に込めている意味は、常に現在に立つ私たちの視点を問うものです。ですから「江戸から昭和の考古学」という限定的なフレーズには、2007年という現代に生きる私たちの認識(<遺跡>問題)は何処にも入る余地がなくなってしまいます。それよりも何よりも、私が「元号」を拒否する根拠は、以下の引用文に全て尽くされています。
「「元号」をつかう歴史観は、天皇制に束縛された歴史観である。日本の近現代史はアジア侵略の歴史である。「元号」をつかって書かれた日本近現代史叙述は、暗黙のうちに天皇(制)とアジア侵略を肯定しているのであり、アジア民衆との連帯をはじめから放棄している叙述である。」(キム チョンミ1994『水平運動史研究 -民族差別批判-』現代企画室:16.)
by 五十嵐彰 (2007-10-06 19:23) 

五十嵐彰

『近世・近現代考古学入門』の購入を希望される方は、ご連絡下さい。定価の2割引き+税(2800→2352)にて、お買い求めいただけます。
by 五十嵐彰 (2007-10-07 23:00) 

さとう

論文刊行、おめでとうございます(&言及+郵送、ありがとうございました)。前々から引用したい議論でしたので、これで、紙媒体でガシガシ言及させてもらえます。(あぁ、それに引き換え怠惰な私のWACプレゼンは…)

また、拙く的を外したものではありますが、自分のblogにて若干、コメントなど述べさせていただきました。
by さとう (2007-10-08 23:51) 

Archa

あぅ。
ようやく書き込みできるように。。。。

抜き刷りを送付くださり、ありがとうございました!
勉強させていただきます。

Blogにも取り上げさせていただきたいと思います。
しばらくお待ちください。。。
by Archa (2007-10-16 23:58) 

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