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山中(敏)2004 [論文時評]

山中 敏史 2004 「考古学と歴史学」 『日本の時代史30 歴史と素材』 吉川弘文館:219-253.

実に「教科書」的な記載である。

「したがって、考古学は、人間活動の諸痕跡を示す物質的資料、人間を取り巻く自然環境に伴う古環境資料、およびそれら相互の関連状況・共存関係に基づいて、過去における人類の活動の実態や歩みを復原することを直接的な目的としている学問であると再定義することができる。そして、その過去とは現在に至るまでの人間の活動の全過程一切を含んでいる。」(224.)

そう、「一切を」。

「このような遺跡の変化の過程は、その地における人間活動や自然の営みの積み重ねを示しており、最下層の考古資料から現地表に残る水田畦畔や水路・道路等の地割、現代の遺構や遺物に至るまで、すべてが過去の人間の諸活動の変遷をたどる歴史素材となるといってよい。」(225.)

そう、「現代の遺構や遺物に至るまで、すべてが」。

「ところで、発掘調査では、地表に残る地割等や現代の建物の基礎などの遺構や近現代の遺物の調査を、どの遺跡においても詳細に進めているわけではない。時間的にも経費的にも厳しい制約の中では、遺跡が抱える今日に至るまでの厖大な考古資料をすべて抽出・記録するのは不可能である。したがって、むしろ、近現代については、歴史素材が考古資料以外にも豊富に存在しているので、近現代の地層の調査は省略し、近世以前の中・下層から詳細調査を始めることが多い。このことは、その遺跡から特に抽出すべき資料とそうでない資料とが選別されていることを意味する。それだけに、発掘担当者は、常にその時点やその地域における歴史学・考古学の最新の成果や課題を把握し、その遺跡から抽出すべき資料・情報は何なのかを考えながら発掘に従事することが求められている。」(226.)

ここからが、問題である。「ところで」以下「すべて記録するのは不可能である」までは、良しとしよう。その次の「したがって」以下が問題である。近現代の調査を省略すること、すなわち近現代に属する考古資料を研究対象から排除する理由として、「歴史素材が豊富に存在している」ことが理由として挙げられる。「量」だけの問題なのか。どのような種類の「歴史素材」なのかという「質」が問われなければならない。現場に立ってから「抽出すべき資料・情報は何なのか」を「考えながら発掘に従事」していては、遅いのである。そしてあらかじめ近現代を排除し近世以前から詳細な調査を始めるということを前提としている限り、「その遺跡から抽出すべき資料・情報は何なのか」を考えることもないだろう。「抽出すべき資料・情報は何なのか」について考えることと、始めから「近現代の地層は省略」することが多いという言明は、矛盾するのではないのか。ここでは、そうした姿勢を「予断」という言葉で表現しておきたい。もし仮に対象とする資料が属する時代に関わらず「抽出すべき資料とそうでない資料とが選別されている」ことを述べるのが主旨だとするならば、「むしろ、近現代については、・・・」の一文は、殆ど意味がない。というより、あえてこの一文をここに挿入した筆者の意図を、読者である私たちは推し量らなければならない。

「文献資料はフィルターを通した情報であり、考古資料は人間活動の直接的資料であると前に述べたが、遺跡から発掘され記録された考古資料も右記のような「フィルター」を通して抽出されたものという側面を伴っている。すなわち、発掘調査で得られた考古資料は、遺跡に残された人間活動痕跡の総体の中から調査者によって「選択」された一部なのである。その意味で、この「フィルター」は文献史料に伴うフィルターとは質的に異なるが、考古資料においても文献史料と同様に資料批判が欠かせない面があるのである。」(243.)

「遺跡に残された人間活動痕跡の総体の中から調査者によって「選択」」される以前に、私たちが<遺跡>という構成物を設定し、設定した空間範囲内における痕跡のみを調査・研究対象とした時点でそれは紛れもなく「調査者によって「選択」された一部なのである」。

そして、結語。

「考古学は、このような文献史学との関係に代表されるように、他の歴史学諸分野とも密接な関係をもっている。今後は、歴史学の一部門を構成する各学問分野間で研究成果をつきあわせ、また相互批判を経ることによって、これまでに復元してきた歴史像のクロスチェックもでき、問題点を鮮明にすることもできよう。そうした過程を経ながら、人類の過去についての諸学問分野の研究成果を総合することによって、人類の歴史を再構成し、現代社会の歴史的特質や矛盾を明かにし、将来の社会のあるべき姿や発展の方向を展望する「大考古学」の樹立も現実のものとなっていくであろう。」(253.下線引用者)

ここに限らず、「・・・も・・・」が頻出する文章群である。その深層心理的意味は。


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