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10 証拠物件 [近現代考古学]

Chapte10 Bodies of evidence:(121-125)、V.Buchli & G.Lucas

1849年ハーバード大学医学部教授が多額の借金を負った相手を殺害し、その証拠物件として焼却炉から頭蓋骨片と入れ歯が検出され、同僚である医学者チームが残留物を検証することで事件を解決に導いた。これが「法人類学」(forensic anthropology)最初の事例と言われる。そこから「犯罪における死体」(the corpus delicti, the body of the crime)という鍵概念が導き出された。

そう、菊池氏が言うように(菊池1985「総論 -考古学の研究-」【06-02-10】参照)、あるいは鈴木氏が言うように(鈴木1984「考古学とはどんな学問か」【06-02-07】参照)、考古学の研究方法は、犯罪捜査における鑑識の方法と対比しうる。と言うよりも、今ではもはや先史的考古学に対するアナロジーという意味ではなく、犯罪捜査そのものが考古学における一分野である法考古学(forensic archaeology)として確立している。

思い起こせば、学生時代の山形の調査で微細遺物のフルイ調査を行い、分析を進めていたころ、東京は西多摩郡所在の「宮崎容疑者宅前の畑の土をふるい分けする捜査員」という写真が新聞に載り、私たちが東北で行ったのと瓜二つの状況(グリッドで区切られた調査区の脇でフルイを篩っている)が警視庁の捜査官によってなされていることに驚いた覚えがある。

19世紀および20世紀も前半までは犯罪捜査においても、物質的証拠(物証)は目撃情報あるいは自白情報に比べて二次的な評価しかなされてこなかったという。シャーロック・ホームズの魅力ある語りにも関わらず。ところが、20世紀後半1950年代以降、法的な証拠は法科学(forensic science)の発達を促し、物質証拠である「犯罪における死体」は、しばしば目撃証言や自白情報を覆すことになった(例えば、旧ユーゴスラビア国際犯罪裁判所における事例など)。

左右横軸の左には知識(Knowledge)、右には倫理(Ethics)、上下縦軸の上には救出(Redemption)、下には分離(Diremption)が描かれる。左上の救出的知識(redemptiove knowledge)には真理(Truth)が、左下の分離的知識(diremptive knowledge)には批判(Critique)が位置する。右上の救出的倫理(redemptive ethics)には正義(Justice)が、右下の分離的倫理(diremptive ethics)には犯罪(Criminality)が位置する。

知識と倫理の揺り戻しの中で、救いあるいは贖いの方向性であらゆる被害者の救済措置がなされる。真理と正義を明らかにする手段として。
また隠蔽あるいは抑圧といった方向性における犯罪性とそれに対する批判的行為が発生する。個人的な犯罪だけでなく、集団的な犯罪、そして社会的不正義に対しても。

人は、死んだ身体(死体/遺体)を穴を掘って地中に埋める(埋葬する)ことを専らとする。その埋め方には、二種類ある。
一つは、公式に認知されて行う埋め方。すなわち一般的に「墓」あるいは「墓地」と呼ばれるもの。それは地中に埋めた存在を、地上で暮らす人々が認識できるように何らかの指標を設けて示す。
今一つは、非公式的になされる(隠蔽される)埋め方。ある時は人里離れた場所で、あるいは埋めた場所が掘り返されないようにその場所にあえて建物を構築したり、人々の記憶を無理矢理あるいは自然と忘却させる様な努力がなされる。

しかし、考古学的な調査は、調査対象地区に存在するそうした痕跡(穴ぼこ)たちをすべて等しく明らかにする。公式だろうが、非公式だろうが、私たちにとって都合が良かろうが、悪かろうが、関わりなく。

しかし、その結果をどのように取り扱うかという場面において、調査者の立ち位置(ポジショナリティ)が大きく問われることになる。
一般的に不在(absence)とされている存在(presence)を回復させる営みとしての考古学的作業。歴史の表に声を出すことなく地中に埋められた人々を歴史的に取り戻す作業。そして、その取り戻す作業を通じて、私たちの歴史的な立ち位置(ポジショナリティ)を構築していく作業。


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