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考古学性とは(24) [考古記録]

「破壊」(fracture)には、そして「破壊」された破片を再びつなぎ合わせる「接合」(refitting)には、大きく分けてそれぞれに対応する二つの類型が設定できる(五十嵐1998d「考古資料の接合 -石器研究における母岩・個体問題-」『史学』第67巻第3・4号:105-128、五十嵐2002b「旧石器資料関係論 -旧石器資料報告の現状(Ⅲ)」『東京都埋蔵文化財センター研究論集』第19号:33-72)。
第1の類型は、「割る」(knap)である。一般的には、ある意図をもってなされる破壊行為をさす。具体的には、石の塊を「打ち割る」ことで、目的とする剥片や石核を得る。石の打ち割りである「割り」によって、剥離面という特殊な破壊面が生じる。剥離面とは、一方に「核」(negative surface)、他方に「片」(positive surface)という凹凸関係を有することを特徴とする。そうした石核と剥片あるいは剥片と剥片といった剥離面での接合が、「1類接合」である。
第2の類型は、「折る」(break)である。一般的には、意図せずに生じる破壊行為をさす。具体的には、剥片や石器などが二つに「折れる」ことである。石の「折れ」によって、折れ面という破壊面が生じる。石器破片あるいは剥片破片といった折れ面での接合が、「2類接合」である。

当初は、剥離者の意図を全面に出した分類、すなわち意図的な破壊(割り)+非意図的な破壊(割れ)の内の人為的な割れ=文化的要因、非意図的な破壊(割れ)の内の非人為的な割れ=自然的要因という図式を示した(五十嵐1998d)。しかし、実際に私たちが手にする考古資料から、考古資料を生み出した行為者の「意図」を明瞭に位置づけることは困難との反省から、行為レベルにおける割る・折るの2区分、それに対応する現象レベルでの剥離(removal)による剥離面とその接合(1類接合)および折損(brekage)による折損面とその接合(2類接合)という単純した類型区分に改訂した(五十嵐2002b)。

割る(knap)にも、意図的な割りと非意図的な割れがあるように、折る(break)にも、意図的な折りと非意図的な折れがあるからだ。そして、様々な研究がなされているにも関わらず、現段階では破壊面の観察によって、割りと割れを、そして折りと折れを識別することは困難である、というのが現時点での判断である。

こうした破壊の類型区分およびそれに対応した接合の類型区分は、典型的には石器資料に認められるが、石器資料に限定されずに、あらゆる素材・材質の物的資料、すなわち全ての考古資料に適応される区分と考える。
そして、この「破壊・接合の類型区分」が重要なのは、接合類型を通じて破壊行為を復元する際に、言及しうる位相が両者で大きく異なるという点である。

すなわち、1類接合(剥離面接合)では、それぞれの接合資料間の時間的前後関係を明示することができるのである。AとBという剥片がAの裏面とBの表面で接合していれば、必ずBよりもAが先に剥離されたということが明言できる。だから、1類接合には、2類接合にも増して、抽出される情報量が格段に多い、言い換えれば内包される情報の質が大きく異なるということである。

「Ⅰ類接合は、石器の製作(技術論)という遺物研究と石器の廃棄(分布論)という遺跡研究の双方に関わるのに対して、Ⅱ類接合は主に後者にのみ関与するという大きな違いがある。」(五十嵐1998d:p.109


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