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考古学性とは(18) [考古記録]

「ある縄文時代の集団は、長二センチ前後の平基三角形無茎石鏃、長二・五センチ前後の凹基無茎石鏃、長三センチ前後の凸基有茎石鏃等の打製石鏃を装備している。また弥生時代のある集落遺跡の住居は、円形八本柱、円形六本柱、隅丸方形四本柱等々の竪穴住居址で構成されている。」(近藤1976:p.25-26)

「研究者が研究対象をどのように認識しているかという点については、どのように区分しているかという単位区分の問題と関連して、区分した単位にどのような名称を付与しているか(命名行為)という点からも検討が必要である。」(五十嵐2004d「考古記録」『現代考古学事典』p.125)

分類した単位にどのような名称を付けるのか、その意味について考える分類単位名称論を論じた文章は、多くない。ここでは、そうした数少ない論考について見てみよう。

「分類が、命名と切り離せぬ関係にあることはあらためて説明するまでもなかろう。命名という作業がおこなわれなければ、分類という作業は完了しない。型式にどのような名称をつけるか、それによって型式の中身は分かりやすくも、分かりにくくもなる。」(林 謙作1996「縄紋時代史28. 研究手段としての命名・分類(別篇)」『季刊考古学』第54号:p.97)

分類単位の呼び方には、必然的に分類方法の違いに起因する区分がある。
帰納的分類に伴う「名辞名称」、すなわち言葉を使う名称、例えば「キナ型凸刃横型削器」、演繹的分類に伴う「記号名称」、すなわち記号や番号を使う名前、例えば「JB-1-g(いわゆる「くらわんか」)」である。

帰納法による分類・命名は、「後追いの分類・命名」であり、「類例がまとまるつど、いわば手当たり次第に、適当な名称をヒネリ出してきた、という方が実情に近い」(林1996:p.98)。「いくつもの型式が、マチマチな属性で代表されているのは、首尾一貫せず、論理的な整合性にかける、主観的・恣意的な分類だ、ということもできる・・・ マチマチな属性にもとづく帰納分類には致命的な弱点があり、型式を区別するメタ属性は、できるだけ一致しているほうが望ましい、と考えている。」(同)

そして演繹分類成立の条件として以下の二点を挙げる。
「対象となる事物・資料の範囲を正確に定義できること。それらの事物(かならずしもすべての事物ではない)を説明できる原理を指摘できること。」(同:p.100)

分類学としては、当たり前の指摘である。しかし、数ある考古学的型式論論文において、こうした原理・原則を明確に指摘した、あるいは意識した記述は、皆無に近い。

蛇足だが、この林1996は、第2考古学的にも重要な論考だが、わずかに引っ掛かるところがある。
それは、文中4箇所にわたって出てくる「機能分類」という言葉である(p.99左下から7行目、右上から4・6行目、p.100左上から6行目)。
いずれも「名辞名称」との結びつきを記す文脈ないしは「演繹分類」と対比させる文脈で用いられていることから、「帰納分類」の誤植と思われる。

本シリーズが集成された林2004『縄紋時代史Ⅱ』雄山閣考古学選書(p.293・294)でも、変更されていない。春成さんも、気が付かなかったのだろうか?
ある意味で「機能分類」でも、意味が通ってしまう(しかしそれではどうにも説明がつかない)ところが、日本語の怖いところである。


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