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考古学性とは(19) [考古記録]

帰納的分類と演繹的分類という原則を踏まえた上で、私たちが行っている分類という行為、似ているものを集めて、似ていないものと区別すること、どこからどこまでが似ていると考えるのか、区分単位内における偏差と、それらがどれほど他の区分単位と異なると考えるのか、区分単位間での差異について、考えていかなければならない。

そうした区分原理について考える際に手がかりとなるのが、諸賢も参照されているD.L.クラークのMonothetic GroupとPolythetic Groupである(David L.Clarke1968 Analytical Archaeology. Methuen.)。林は前者を「単相組成」、後者を「多相組成」と呼んだ(林謙作1990「縄紋時代史6 縄紋土器の型式(1)」『季刊考古学』第32号:p.87)。佐藤は「一元決定的分類」と「多元決定的分類」とした(佐藤啓介2001「分類理性批判」p.7)。あるいは「単一配列分類」と「多配列分類」とした(佐藤啓介2004「考古学における型式学」『進化学会シンポジウム「非生命体の進化理論2』)。

佐藤2001の訳により、クラークの言葉を引いておこう。
「多元決定的な分類群とは次のような実体群の分類群を指す。個々の実体がその分類群の属性の多くを持ち、それぞれの属性は多くの実体によって共有されており、かつ、どの単一の属性もその分類群のメンバーにとって十分条件とも必要条件ともならないような分類群のこと。」(Clarke1968:p.36)

こうした属性選択の在り方にこそ、石器資料と土器資料の根本的な性格の差異が表出しているのではないか、というのが私の見立てであった。

「1:土器型式とは異なり、石器型式は固定せず、移動する。<再生原理>
2:形状からは石器の製品・未製品の境界を確定することは困難である。<製作・使用の 未分離>
3:石器型式の設定対象となる主産物が資料全体に占める比率は常に少数であり、主体は製作時の副産物である。<作り滓(debris)の圧倒性>」(
五十嵐2002a「型式と層位の相克 -石器と土器の場合-」『旧石器時代研究の新しい展開を目指して』p.21)

中でも極端な一元決定分類をなしている石器機種の特異性が注意されるべきである。
「つまみ」という部分性をもって分類がなされる「石匙」。
「ファシット」という部分性をもって分類がなされる「彫刻刀形石器」。

そこには、考古資料は破片をもって存在するのが常態である、という破片性(fragmentality)という問題、考古学の学的本質に関わる問題が控えている。

しかし、デビッド=クラークの『分析考古学』を読み返してみて、こんなものが1968年に書かれていたということ、ただそれだけに改めて打ちのめされてしまった。これが、せめて70年代、いや80年代にでも訳されていれば、日本の考古学もどれほど変っていただろうか、と思わざるを得なかった。


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青田石

現在行われている発掘調査は、ここで言う、第一考古学の手法で行われているのがほとんどだと思います。それぞれ調査報告書が刊行されるわけですが、二次整理の方法も第一考古学の手法によるものでしょう。
第二考古学の理論(理念?)にしたがって調査・報告をするとするなら、どうすればよいのでしょうか。
理論を実践する場があるのなら、それは実践しなければならないのではと思います。陶磁器を十年単位に編年することにどういう意味・意義があるのですか。
編年は何かを解き明かす為の手段と思いますが。
旧石器文化研究会、江戸遺跡研究会などのほとんどが、第一考古学の立場に立って活動しているのではないでしょうか。第二考古学という考え方の存在すら知らないのではないでしょうか。ブログだけで伝えようとしても限界はあるし
所詮ブログでしかない。事あるごとに第二考古学の理論・理念を伝ええてほしいにですが。先日、在土研の会に出た印象を聞きましたが、予想どうりの答えでした。言っても無駄かなというのなら二度目は無いと思いますが。
第二考古学の立場に立った調査・整理・報告を期待しています。
by 青田石 (2005-12-18 16:10) 

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