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回想(2000・上半期) [捏造問題]

2000年の1月29日に東京都立大学にて「日本列島の旧石器動物群をめぐる諸問題」と題した日本第四紀学会のミニシンポジウムが開催された。
基調報告として「日本の旧石器時代動物群」(河村善也)、「野尻湖動物群をめぐる諸問題」(小野昭)の2本が、コメントとして「日本列島のターミネーションと動物群の渡来時期」(吉川周作)がなされた。

「東京考古談話会」という東京地域を主とするローカルな研究会があり、役員をされている同僚から、「東京の遺跡」という季刊の連絡情報誌に第四紀学会のミニシンポジウムの報告を書いてくれないかという依頼があった(五十嵐2000d「日本第四紀学会ミニシンポジウム2000「日本列島の旧石器動物群をめぐる諸問題」『東京の遺跡』第65号:823-824)。

基調報告1およびコメントでは、ステージ12(約43万年前)とステージ16(約63万年前)における陸橋形成について述べられた。そして会場における質疑として、ステージ16以前の人類渡来を疑問視する発言と共に、福島県「一斗内松葉山」での70万年前、あるいは宮城県「上高森」での「100万年前以前の遺跡に時間的に近い石器群」の発見といった出来事について齟齬を来たしている状況を紹介した。

「とうとう中期更新世を突破して、前期更新世への突入である。シガゾウ(Mammuthus shigensisi)の移入時期とされる約100万年前~120万年前のステージ26以上の陸橋形成時の渡来を想定するのか、日本の旧石器研究が新たな状況を迎えていることは確かである。」(同:p.823)

そして、古典的氷河編年から酸素同位体ステージへと表記が移り変わっていることを指摘し、世界の研究状況とクロスチェックしていく必要性を述べ、以下の一文を最後に記した。

「司会者によって手際良く進められた総合討論での様々な意見を聞きながら、「終止符が打たれた」とされる「第一次前期旧石器論争」に続く、新たな「第二次前期旧石器論争」の種子が、深くそして静かにはぐくまれていることを感じた。」(同:p.824)

これは、先に記した自らの文章(「遺物としての石器に関してのみ議論が集中し、明確な回答が得られなかった「前期旧石器論争」も、石器自体の研究に加えて、遺跡としての出土状態や石器の出土した地層の検討が行われることによって、長い論争にようやく終止符が打たれようとしている。」(五十嵐1989:p.11-12))に対する前言撤回もしくは新たな状況を迎えたという認識のもとに立った新たな意見表明でもあった。

しかしながら、「深く静かにはぐくまれているはずの種子」と思われたものは、表立って芽を出すことなく、いきなり半年後の<11・5>を迎えることになる。

 


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sakamo

今回の「回想」連載、刺激的な内容で、毎回引き込まれつつ読んでいます。
「いつ誰がどこで何を」言ったかやったか…これは歴史学にとっては、いくら子細に追求してもしすぎることはない、重要な作業だと思います。
「いまさら過去をほじくり返して」的な反応も、あるいはあるやにしれませんが、
前期旧石器捏造問題とそれに関する膨大な言説は、絶対風化させてほしくないし、しっかりと、どこかでまとめておいてほしいです。
今回の回想的な内容のものが、いつか「公刊」されることも望みます。

唐突ですが、この問題からなぜか、「住井すゑ」を想起してしまいます。
差別とのたたかいをテーマにした名作(よいのは1巻だけだと思いますが)『橋のない川』の作者として、戦前から一貫して天皇制に反対していたと豪語していた彼女が、晩年その虚偽を暴かれてしまったときの見苦しい態度と言い訳…。
何十年か先、住井のような考古学者を出さないためにも、確たる「記録」がほしいものです。

ところで、前期旧石器の真贋論争には、いろいろと「個人的」な思い出があります。伊皿木さんの年代に対応する形で、私的なコメントをつけさせてください。
by sakamo (2005-11-07 21:42) 

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