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実験痕跡研究 [痕跡研究]

従来の「体験的実験考古学」を見据えたうえで、新たに「実験痕跡研究」を提唱したのには、以下の文章の影響も大きかった。

「実験的研究は古くから世界各地で数多くおこなわれており、枚挙のいとまがない。私もまた実験的研究を重視する。いま遺物の場合にかぎっていえば、出土状況、伴出関係・じゅうぶんな観察・使用痕の追及・民俗例との比較・実験的研究、これらを総合して遺物の研究は成立する。最近は実験考古学の名もよく耳にする。しかし、実験考古学という独立した学問は成立しえないだろう。独立させれば足は地につかず、風船のようにたちまちどこかに消えていくだろう。」(佐原 真1972「弥生時代(下)」『考古学ジャーナル』第74号:p12)

キーワードは、痕跡と行動であった。痕跡を生じるに至った行動を考える。行動を再現して生じる痕跡を考える。両者の往復運動をなすことが肝心である。これは、ビンフォードの「ミドルレンジ研究」そのものである。しかし従来の「実験考古学」 には、こうした観点が殆ど感じられなかった。土器や石器を作る。火起しをする。修羅で石材を運搬する。古代船で航海する。・・・ こんな風にすれば、こんなのができた。こんなことができた。

ある行動によって、ものに残された痕跡、それが複数回繰り返されること。そして、ものに残された性格の異なる痕跡が重複しているということを考えていた。あるものに残された製作痕跡と使用痕跡の重複。そこから作用主体としての加工具と対象物としての被加工物の「製作と使用の連鎖構造」(使用-製作関係)が見えてきた。

単に「作ってみた」「使ってみた」というバラバラな体験考古学ではなく、作った痕跡(製作痕跡)、使った痕跡(使用痕跡)を痕跡研究(トラセオロジー)という総体的な枠組みの中に、明確にそして意識的に位置づけることが今もっとも必要とされている事ではないかと考えていた。「実験痕跡研究の枠組み」と題した所以である。


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