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レンフルー&バーン(第10章) [全方位書評]

第10章 人は何を考えたか ―認知考古学・芸術・宗教 :393-428.
10. What Did They Think? Cognitive Archaeology, Art, and Religion

「一部のプロセス考古学者、特にルイス・ビンフォードは、過去の人々が何を思ったかなどということを考えてもあまり意味はないと主張した。彼らは、「もの」という記録に主に残されるのは、過去の人々の行為であって思考ではないと言うのである。しかし、私たちがここで採る立場はそれとは異なる。私たちが発見する遺物の一部は人々の考えや意図の産物であると考え(これについては私たちの方法論に反対する人々も否定はしないであろう)、こう考えることは、人々の思考や意図についての研究に問題と共に可能性をもたらすという仮定から始めたい。」(394.)

そしてポパーの「世界3」(意思を表明する世界)、認知地図、象徴化能力の問題が述べられていく。

余計なことだが、認知考古学と言えば、日本では、スティーヴン・ミズン(松浦俊輔・牧野美佐緒訳)1998『心の先史時代』が有名だが、後に松本直子ほか編2003『認知考古学とは何か』などではスティーブン・マイズンとなり、ここでは再びスティーヴン・ミズンである(395.)。松木武彦2007『列島創世記』では、当然のことながら?、スティーヴン・マイズンである。まぁ、レンフルーでもレンフリューでもどちらでもいいのだが、本人たちもできればどちらかにしてもらいたいと思っていることだろう。

「初期の思考を示唆するもの」と題されたコラム(398-399.)で紹介されているフランス・ロッシュ=コタール(La Roche-Cotard)の「石と骨の仮面」については、Science Vol.302 No.5652(12 December 2003):1890に簡単な紹介がなされていた。それによるとコーネル大のネリッサ・ラッセルは「仮面ではない」と言っているし、ボルドー大のフランチェスコ・デリコは「テントの重しとして使われたブロックである」と言っており、未だ賛否両論のようである。

「私たちの関心は、シンボルがどのように用いられたかを研究することにある。シンボルの意味を、それをしようしていた人々が意図していた通りに理解できるなどと主張するのは野心的すぎるかもしれない。しかし、深い分析には立ち入らず、「意味」を「それぞれのシンボル同士の関係」というように定義することは可能である。」(399.)
として、認知考古学に関する「6つの異なる場面」が述べられる。

1.場を確立する
2.度量衡(measurement)
3.プランニング(planning)
4.人間同士の関係(relations between human beings)
5.来世(human relations with the Other World)
6.描写(depiction)

なぜ、1.だけ対訳がないのか?
それは、1991年の原書初版に記載がないからである。1995年の第2版以降のいずれかにおいて加筆されたものと思われる。当然1.に該当する本文記述箇所(日本語版の章題「場の確立ー記憶の位置」:406-408.)も見当たらない。こうした認知的な景観「ネオ=ウェセックス学派」に関するポストプロセス的研究が、90年代後半以降に急速に進展したことの証左であろう。

同じように「文字を読み書きする能力 初期の文字システムが発達した場所を示した地図」(404.)を、原書初版の同様の図(Writing and literacy. Map to show locations of the world's earliest writing systems :348.)と比較すると、両者の間に微妙な差異が見出せる。
原書初版では、イギリスのスコットランドおよびアイルランドに相当する箇所にOgham 4th century AD なる記載があるのに、日本語版では削除されている。対して、原書初版にはない、日本列島地域に「日本語仮名 紀元後6世紀」の記載が加筆されている。どのような理由によって、このような加除筆がなされたのか、その真相は不明である。よく見ると、各地の年代値も微妙に修正されていることが判る。

祭儀・儀礼については、注意の集中、厳正と来世の境界ゾーン、神の存在、参加と奉納という4領域16項目にわたる具体的な考古学的指標が挙げられている。

「考古学者がまずなすべき仕事は、あるがままの祭儀の証拠を認識することであり、自分たちが理解できない過去のあらゆる行為をすべて宗教的活動に分類してしまうという、過去の過ちを犯さないことである。」(416.)


タグ:認知
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