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東海林2016「ある狛犬の叫び -文化財まで奪う戦争-」 [論文時評]

東海林 次男 2016「ある狛犬の叫び -文化財まで奪う戦争-」『東京の歴史教育』第45号、東京都歴史教育者協議会:53-58.

【靖国神社・狛犬】
「石獅子:其形内地の製と稍異なれり。是そ廿七八年の役に遼東より捕獲し来りたるものなり。當時之を引き来るには、軍役夫中より獅子運搬組といふを編成し、新に堅固なる車を造り、各個分離して運搬せり。其の車は紀念として、諸社寺に分納し、現に上野の大師堂にも其の一輌を蔵せり。」
(1898『風俗画報 臨時増刊「新選東京名所図会」第17編』)

「獅子据石一對 明治27・28年役の戦利品なり」
(靖国神社 編1911『靖国神社誌』)

「日清ノ役、出征ノ将士、其ノ獲ル所ノ兵器、諸物ヲ以テ、天皇ニ献ル。天皇勅シテ曰ク、是等ノ物ハ皆朕ノ将卒ガ一死奉公ノ勲績ヲ語ルモノナリ、永ク後世ニ傳へザルベカラズト、乃チ命ジテ吹上御苑ノ東南ニ一府ヲ造営シ、以テ之ヲ蔵メシメ給フ。明治二十八年十月工ヲ起シ、翌二十九年九月成ル、號シテ振天府ト日フ。」
(発行年不明『明治神宮外苑絵画館 壁画集解説』)

「明治28年(1895) 山縣有朋清国海城三學寺より譲り受け奉納
(左台座)直隷保定府深州城東北得朝村弟子李永成敬献獅子一對
(右台座)大清光緒二年(1876)閏五月初六日敬立」
(靖国神社 編1983『靖国神社百年史 資料編 中』)

2014年12月:中国民間対日賠償請求連合会 文化財追討部長 王 錦思氏来日
「東京九段の靖国神社の大鳥居の前に設置された「狛犬」は、旧日本軍が日清戦争期に中国から略奪した「石獅子」だとして、中国の団体が同神社に返還を求めている。」
(『Record China』2021年2月23日)

【栃木県矢板市山縣有朋記念館・狛犬】
「一 白石獅子 一對 山縣陸軍大将献上」
(『明治二十七八年戦役 戦利品明細録 陸軍之部』宮内省公文書館所蔵)

「公に賜はりし一體は現今、神社に程近い侯爵邸内にあり、その傍には公親からその事由を記せる左の一文が刻されて存する。海城三學寺石獅 第一軍凱旋時献焉 聖上分賜其一即是也 明治二十八年十月 山縣有朋識」
(靖国神社1983『靖国神社百年史 資料篇 中』)

【大阪城公園・狛犬】
「(1937年7月に中国天津市に日本軍が大空襲を行ない)跡もとどめず完全に粉砕された市政府の門前にひかえてゐたもので大爆発の風圧のためにコロリと転がったが奇跡的に無傷のまま壊れずに助かってゐた、抗日二十九軍の憐れな最後を物語る北支支那軍敗戦の記念物である。」
(1938年4月16日『大阪朝日新聞』朝刊:11.)

「このこま犬は古い時代につくられた中国の文化遺産で、あの不幸な時代に、中国からはこばれて来て、もと当公園内の天守閣北側付近にあったが、このたび、中国側は中日両国人民の友好関係を促進し、友誼を深めるために、あらためて大阪市に寄贈したものである。記念碑に刻まれている「中日友好萬古長青」という文字は、中日友好は永遠に変わらないことを願う意味で、中華人民共和国中日日本国特命全権大使宋之光先生の真筆のものである。」
(大阪市 1984年10月「説明板」)

「日本軍は1937年…7月29~30日には天津を爆撃占領し、その時、天津市庁舎前のこま犬を略奪してきました。こま犬は、翌1938年に兵庫県西宮市の西宮球場および外苑で開かれた「支那事変聖戦博覧会」で「勝利の戦利品」として展示され戦意高揚に利用されました。その後1940年、大阪城山里丸跡に国防館という施設が戦争教育のためにつくられました。こま犬は国防館の玄関口である山里丸出桝形石積の上に置かれ、国防館を訪れた小学生をはじめ入場者に「強い日本」「弱い中国」を印象付け戦争遂行のプロパガンダとして利用されました。」
(「大阪城のこま犬」大阪城狛犬会)

留意すべきは、「戦利品」(1911)と明記されていたにも関わらず、「譲り受け」(靖国神社1983)あるいは「憐れな…記念物」(1938)が「はこばれて」(大阪市1984)と曖昧な表現になっていることである。
「譲り受けた戦利品」などは、ないだろう。
歴史教科書の記載に関して侵略→進出で問題となった「第一次教科書問題」と称される騒動は、1982年6月のことだった。

1937年の天津大空襲によって破壊された天津市政府庁舎から「戦利品」として運び込んだ石造物を、1938年4月から5月まで大阪朝日新聞社主催、陸海軍両省後援「支那事変聖戦博覧会」で展示して「早くも狛犬人気!」「人々の人気を集めて異国的な雰囲気を漂わせている」などと戦意高揚の資としていた。
それが1980年代には返還するどころか、その由来の経緯すら明確にしない記述となっていた。
世界の動向とは逆行する公的セクターにおける歴史認識の後退が顕著である。

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