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松木2021『はじめての考古学』 [全方位書評]

松木 武彦 2021『はじめての考古学』ちくまプリマ―新書 389

「1914年に始まった第一次世界大戦でドイツは敗北を喫し、その講和として1919年に結ばれたヴェルサイユ条約によって、巨額の賠償金を課せられた上に、東方のエルサス・ロートリンゲン地方はフランスへ、西方の西プロイセン地方はポーランドに割譲させられるなど、多くの領土も失うことになってしまいました。」(48-49.)

何度読んでも、私の中の世界地理感覚と整合しないのはなぜだろう? 
2020年度駒澤大学文学部「日本考古学概説」の受講生や筑摩書房の担当者は、疑問に感じなかったのだろうか?

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坂詰2021『転換期の日本考古学』 [全方位書評]

坂詰 秀一 2021『転換期の日本考古学 -1945~1965文献解題-』雄山閣

「その間(1931年~1945年)、日本の考古学は「官」を主体とする「植民地」の考古学的調査が殷賑を極める一方、「肇国」の考古学が「民」において風靡していた。しかし、科学としての考古学を掲げる硬骨の士は泰然自若として自己の研究を展開していた。」(i)

「科学としての考古学を掲げ」て「はてしなき泥濘の道」を歩んだ考古学者がこうした文章を読んだら、いったいどのような感想を抱くだろうか?

実は、ある所から本書の書評を依頼されていた。
「誠に申し訳ございませんが、どう考えても適任とは思えません」とお断り申し上げた。
依頼された方には「誠に申し訳ない」が、引用した冒頭の一文を読んで自分の判断は間違っていなかったと思っている。

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東海林2016「ある狛犬の叫び -文化財まで奪う戦争-」 [論文時評]

東海林 次男 2016「ある狛犬の叫び -文化財まで奪う戦争-」『東京の歴史教育』第45号、東京都歴史教育者協議会:53-58.

【靖国神社・狛犬】
「石獅子:其形内地の製と稍異なれり。是そ廿七八年の役に遼東より捕獲し来りたるものなり。當時之を引き来るには、軍役夫中より獅子運搬組といふを編成し、新に堅固なる車を造り、各個分離して運搬せり。其の車は紀念として、諸社寺に分納し、現に上野の大師堂にも其の一輌を蔵せり。」
(1898『風俗画報 臨時増刊「新選東京名所図会」第17編』)

「獅子据石一對 明治27・28年役の戦利品なり」
(靖国神社 編1911『靖国神社誌』)

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太田2008『亡霊としての歴史』 [全方位書評]

太田 好信 2008『亡霊としての歴史 -痕跡と驚きから文化人類学を考える-』叢書 文化研究6、人文書院

「植民地主義下の不法行為は過去のことであり、その意味では終焉し、閉塞した歴史である。だが、それらの不法行為の歴史は、予期せぬ政治的・経済的・文化的展開によって、その閉塞を打ち破られる。福岡高裁の判決(2004年5月24日、中国人元炭鉱労働者15名が国と三井鉱山を相手取り総額3億4500万円の損害賠償を請求した訴訟で訴えを棄却した判決:引用者)は、過去と向き合うことが民主国家の成熟度を示すといってもいい時代に、植民地主義が生み出したゆがんだ過去を語り直す絶好の機会を、みすみす逃してしまったことになりはしないだろうか。」(19-20.)

キーワードは、「語り直す」である。
本文章は、2004年6月に東京外国語大学で開催された日本文化人類学会第38回研究大会における「終焉を拒む歴史から見える世界 -和解・返還・再考-」と題する分科会における口頭発表が基となっているが、それから20年弱が経過して日本という国家は未だに「過去と向き合うこと」ができずに「民主国家の未成熟度」を世界に示し続けている。

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