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2021『八王子市 No.987遺跡』 [考古誌批評]

五十嵐 編 2021e 『八王子市 No.987遺跡 一般国道20号(八王子南バイパス)建設事業に伴う埋蔵文化財調査』東京都埋蔵文化財センター調査報告 第365集、2021年10月29日発行

定年イヤーに何のめぐり合わせか近現代主体、そして念願のフルカラーである。
近現代に出会ったのは、今から35年前の院生時代に参加した『郵政省飯倉分館構内遺跡』(1984年調査・86年報告)だった。出土万年筆を調べにデートを兼ねて平塚のパイロット万年筆資料館に行ったり、今となっては懐かしい思い出である。

No.987の考古誌も、様々な偶然が重なって出来た産物である。
着手が2ヵ月近く遅れて、4ヵ月調査・4ヵ月整理の短期現場であった。
100頁の予算で結果的に87頁となり、三桁数字の<遺跡>名称をどのように背表紙に入れるか、洋数字の縦書き表記は受容できないので、斜めに入れるか漢数字に置き換えるか思い悩んでいたが、結果的に横書き表記で何とか収まって安堵した。

以下、備忘録代わりに幾つかの事柄を、思いつくままに書き記しておこう。

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佐藤2017『死者と苦しみの宗教哲学』 [全方位書評]

佐藤 啓介 2017『死者と苦しみの宗教哲学 -宗教哲学の現代的可能性-』南山大学学術叢書、晃洋書房

「…本書が考える現代における宗教哲学とは、宗教概念を捨て去るのではなく、宗教概念やそれに準じる諸概念が召還される(ないしは召還されてきた)であろうような「強度をもった」人間経験において、なぜそうした希求が起こるのか、その構造は何か、一体何を求めているのか等々、そうした問いを宗教的言説と哲学的言説の双方を参照しながら考察することである…」(4.)

全く未知の領域において、自らの痕跡研究がどのようにビルトインされているかを確かめることになる。

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中尾2021「考古学と進化論」 [論文時評]

中尾 央 2021「考古学と進化論 -物質性とニッチ構築-」『現代思想』第49巻 第12号、進化論の現在 -ポスト・ヒューマン時代の人類と地球の未来-:23-30.

2年前に大正大学で開催された日本旧石器学会シンポジウム「旧石器研究の理論と方法」でお会いして以来である。

「両者(考古学と進化論:引用者)を、現状でお互いにとってもっとも違和感なく結びつけるであろう二つの議論」として物質性(materiality)とニッチ構築理論(niche construction theory)が紹介されている。
まずは、物質性を巡る議論について「たいした関心もない」(23.)としつつ、以下のような事柄が述べられる。

「「われわれは土器にはこのような文様を施す集団であり、この集団に属す限りは土器に対してこのような文様を施すべきである」という規範が作り出される(e.g. Tomasello 2016)。そしてこの規範が、さらには集団としてのアイデンティティに結びつき、集団の結束度(≒さまざまな文化の類似性)を高めることにつながっていくこともある。」(24.)

最近どこかで、同じような文章を読んだな、と記憶の糸を手繰り寄せる。

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時津2007「考古学における嘘」 [捏造問題]

時津 裕子 2007「考古学における嘘」『現代のエスプリ』第481号:128-140.

「この事件(旧石器捏造事件:引用者)のなにが世間を驚かせたかといえば、ポイントは次の二点に集約されると思われる。
① 考古学(学問)に携わる者が世間を欺く嘘をついたこと
② その嘘を考古学者たちが見過ごしたこと、あるいは彼らがまんまと騙されたこと」(128.)

「嘘の臨床、嘘の現場」と題する特集号における「捏造と研究の倫理」という項目に収められた論考である。
①は言わば嘘をついた当事者、②はその嘘を見抜くことができず見過ごした多数者に関わることである。
第2考古学としては、当然のことながら後者の傍観者責任を問うこととなる。

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井野瀬2021「コルストン像はなぜ引き倒されたのか」 [論文時評]

井野瀬 久美恵 2021「コルストン像はなぜ引き倒されたのか -都市の記憶と銅像の未来-」『歴史学研究』第1012号:41-50.

3か月前に開催された「今こそ問う 朝鮮文化財の返還問題」における発表で言及したコルストン像が取り上げられている。
私にとって正にタイムリーな論考である。

アメリカ・ミネアポリスでジョージ・フロイドが警官による頸部圧迫によって命を奪われてから2週間後の2020年6月7日に、イギリス西部の港町ブリストルで熱心な慈善活動家として知られていたエドワード・コルストンの銅像がBLM抗議デモの参加者たちによって引き倒され埠頭から海に投げ込まれた。

「なぜコルストン像は引き倒されたのだろうか。それは、「コルストン像がなぜ建てられたのか」という問いと表裏一体で考える必要があろう。銅像とはその設置を決めた当時の人びとにとっての集合的記憶の問題であり、それを倒そうという行為自体が、その集合的記憶に対する異議申し立てだからだ。」(43.)

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