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ビンフォード2021『過去を探求する』 [全方位書評]

ルイス R.ビンフォード(植木 武ほか訳)2021『過去を探求する -考古資料解読の方法と実践-』雄山閣(Lewis R. Binford 1983 IN PURSUIT OF THE PAST Decoding the Archaeological Record.
*1983年刊行のハードカバー版はThames and Hudson、2002年刊行のペーパーバック版はUniv. of California Press、本訳書には「2002年度版へのあとがき」も付されている。)

ビンフォード初の訳書、待望の刊行である。

「先日バスに乗っていると、乗り合わせた老紳士が私に職業を尋ねてきました。そこで筆者が、考古学者だと答えると、彼は「それは素晴らしい。運が良ければ、あなたは大成功できる」と、激励してくれたのです。そこで筆者は、考古学についての彼の見方と私の見方とがまったく違っていることを、その老紳士に説明し、納得してもらうまでにはちょっと時間が掛かりました。考古学者の仕事は「過去を掘り」、未発見の何かを発見した者が成功した人であり、全ての考古学者がこのような発見をしようと駆けずり回っているのだと、彼は考えていたようです。これは19世紀の古い科学の概念に相応しいものですが、筆者の知る限りでは、この考え方は今日行われている考古学の本質を言い当てたものではありません。本章では、考古学者は何故、単なる宝物の発見者ではないのか、その事を説明することにします。
多くの人々がそうであるように、バスに乗り合わせた老紳士も、考古学者は「過去の宝物を発見する」研究者だと思い違いをしているのです。そうではなく、考古資料は、現在のわれわれと共に存在するのです。」(19.)

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松島・山内編著2020『京大よ、還せ』 [全方位書評]

松島 泰勝・山内 小夜子 編著 2020『京大よ、還せ -琉球人遺骨は訴える-』耕文社

「清野は、京都の寺院に自由に出入りし、経典などを閲覧していたが、1938(昭和13)年6月30日、疑いをもった寺院の通報から寺院からの帰宅途上に警察官による尋問を受け、所持していた鞄の中から経典数十点の無断帯出が発覚し、その後、教室や自宅の捜査の結果、京都市内22寺社の経典630巻、さらに教授室の捜査の結果、1360点の経典類の無断帯出が発覚し、押収された。
清野は、直ちに休職処分となったのち、有罪判決を受け、京都刑務所に収監され、六か月間、服役している(このことが関係し、当時の濱田耕作総長の辞職表明とその後の心労による急死といった開学以来の事態へと発展した)。」(琉球民族遺骨返還請求訴訟弁護団「京大は遺骨を元の場所に返しなさい」:22-23.)

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五十嵐2021c「「返す」ということ」 [拙文自評]

五十嵐2021c「「返す」ということ」『韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議年報』第10号:2-4.

2010年6月12日の公開シンポジウム「韓国・朝鮮文化財返還問題を考える」に参加したのが、最初であった。
それから11年。晋州や釜山そして平壌・開城と様々な場所で様々な人たちと出会った。

持ってきた<もの>を「返す」とは、いったいどういうことなのだろうか?
どのような意味があるのだろうか?
そのようなことを考えた。

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タグ:文化財返還
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