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宮本2017「日本人研究者による遼東半島先史調査と現在」 [論文時評]

宮本 一夫 2017「日本人研究者による遼東半島先史調査と現在 -東亜考古学会調査と日本学術振興会調査-」『中国考古学』第17号:7-19.

「日本の各大学や博物館などにおいて依然として収蔵されている植民地考古学の一次資料は、日本の大陸侵略による負の遺産ということができるが、一方でこうした一次資料を今日的な学問水準から再調査や再分析する価値は十分に存在している。日中の考古学的交流が活発化している中、こうした資料から新たな学問的な成果を出すことが中国考古学への貢献をなすことに繋がるであろう。さらに、複雑な国際状況の中で東北アジアの歴史復元における科学的な資料を提供するものであり、こうした一次資料を基にした再調査や再研究は日本人研究者の責務の一つと考えられる。」(16.)

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徐2010『植民地主義の暴力』 [全方位書評]

徐 京植 2010 『植民地主義の暴力 -「ことばの檻」から-』高文研

「「国民主義」とは、「国家主義」と区別して暫定的に用いる用語である。両者はいずれも英語に訳せばナショナリズムとなるが、いまから問題にしようとする「国民主義」は、いわゆる先進国(旧植民地宗主国)のマジョリティが無自覚のうちにもつ「自国民中心主義」を指す。「国民主義」は多くの場合、一般的な排他的ナショナリズムとは異なるように見え、当事者も自分自身をナショナリストとは考えていない。それどころか「国民主義者」は自分をナショナリズムに反対する普遍主義者であると主張することが多い。彼らは自らを市民権の主体であると考えている。
しかし、その一方で彼らは自らが享受している諸権利が、本来なら万人に保証される基本権であるにもかかわらず、近代国民国家においては、「国民」であることを条件に保証される一種の特権となっているという現実をなかなか認めようとしない。国民主義者は自らの特権には無自覚であり、その特権の歴史的由来には目をふさごうとする傾向をもつ。したがって国民主義者は「外国人」の無権利状態や自国による植民地支配の歴史的責任という問題については鈍感であるか、意図的に冷淡である。この点で、「国民主義」は、一定の条件のもとで排他的な「国家主義」とも共犯関係をむすぶことになる。」(64.)

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太田1998『トランスポジションの思想』 [全方位書評]

太田 好信 1998『トランスポジションの思想 -文化人類学の再想像-』世界思想社

20年ほど前、近現代考古学や<遺跡>問題について思い悩んでいた時分に、大いに刺激を受けた書物である。今、改めて読み直して、改めて刺激を受ける。私にとって「好著」とは、自分の抱えている問題に新たな示唆を与えてくれる書物である。深みまで降りていける手助けとなるような、新たな思考を触発するような。

「アイヌの人々から発せられた批判の一つは、民族の誇りを保持しつつ、現代日本社会で生きる希望を否定する語りが、アイヌ研究には「客観的」研究という名目に隠れて存在したことである。まず、アイヌ研究の未来は、そのようなアイヌの人々の主張と連動する学問となる必要があろう。アイヌの人々の抵抗に共感し、そのような活動を支援する研究、少なくとも、研究の社会的な意義をつねに考察する学問として成立する必要があろう。」(132.)

アイヌの人からの問題提起を受けて「私たちの資料入手の全てが遺法であったとは思わない」と開き直りともとれる発言とは相容れない言説である。

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