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古谷2019『縄文ルネサンス』 [全方位書評]

古谷 嘉章 2019 『縄文ルネサンス -現代社会が発見する新しい縄文-』平凡社

「私が試みたのは、21世紀初めの20年ほどの期間に日本社会で現れてきた、縄文をめぐる新しい動きを、バラバラの事象としてではなく、「縄文ルネサンス」という概念でまとめて論ずるに値する複合的現象として捉え、それについてできるだけ多方面から光を当てて、その姿を浮かび上がらせ、その背後あるいは基底にある潮流を読み取ることであった。」(257.)

岡本 太郎の「太陽の塔」に始まり、どぐキャラ総選挙、土器片クッキーを経て考古学アートに至るまで、これは一時的な「縄文ブーム」などではない、社会的な必然である「縄文ルネサンス」なのだというのが、10年以上にわたる科研費基盤研究(C)に基づいて本書で述べられている文化人類学者の見立てである。

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梶村2014『排外主義克服のための朝鮮史』 [全方位書評]

梶村 秀樹 2014 『排外主義克服のための朝鮮史』平凡社ライブラリー823

1970年代になされた3つの講演録(Ⅰ 排外主義克服のための朝鮮史 [1971年]、Ⅱ 朝鮮民族解放闘争史と国際共産主義運動 [1971年]、Ⅲ 八・一五以後の朝鮮人民 [1976年])を収録したものである。
半世紀前になされた講演であるから当然のことながら修正すべき点は多々あるものの、それ以上にしっかりとした視点とブレない問題意識に教えられることが多々あった。「好著」である。

「在日朝鮮人との連帯のために
次に、こうした日本人労働者の排外主義に基づいた、いわれのない民族差別に対する朝鮮人の姿勢について、ごく簡単につけ加えておきます。さかのぼれば、「日韓併合」を黙過した日本人、憲兵政治に加担した日本人、植民者として、また日本において数々の差別行為を犯した日本人に対する累積してきた不信感は関東大震災を通してさらに決定的になっていったと思います。ただ、それにもかかわらず、関東大震災以後といえども、朝鮮人の側から、日本人のいかなる努力も受けつけないというように閉じてしまう姿勢がとられたのではないということをあえていっておきたいと思います。

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五十嵐2020a「書評 ジョウモン・アート」 [拙文自評]

五十嵐 2020a 「書評 ジョウモン・アート」『季刊 考古学』第150号:165.

「…世界考古学会議での様々な発表(114本!)と比較して、日本ではどうも盛り上がりに欠けているように思われる。その要因として考えられるのは、「日本考古学」では依然として編年研究などの文化史復元(第1考古学)が主流を占めていて、「考古学ポテンシャルの拡張」に関わる方法論や研究手法あるいは現代社会との接点に関する問題(第2考古学)についての関心が低調なせいではないだろうか。」

276頁におよぶ最先端の意欲的な試みである。本ブログでも紹介したが、「ジョーモン・レギュラー」なる先史フォントのこと、石器の実用性とデザイン性を巡る対談、パブリック考古学との関わりなど、与えられた僅か1800字という制約の中では述べることは叶わなかった。
「日本ではどうも盛り上がりに欠けているように思われる」と記したが、実際は各地で様々なイベントが行われており(古谷 嘉章2019『縄文ルネサンス』:171-198.)、盛り上がりに欠けていたのは私の知る世界だけのようである。但しアートと考古学双方において「相互性がない」(同:192.)とする観点では共通している。

「考古学は単にアーティストに発掘現場という体験の機会を提供するだけでなく、自らの拠って立つ社会的な存在基盤を問い直さなければならない。本書は、そうした「日本考古学」の在り方そのものを問うているように思われる。」

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