SSブログ

勅令第263号(補) [学史]

教職員適格審査施行規則に関する件
(昭和二十一年八月七日発適第一七号適格審査室長ヨリ官公私立大学長学校集団長地方長官宛)
右の件につき左記の通り別表第一第六項の解釈が決定しましたから御承知下さい。
                記
昭和三年一月一日以降に於て日本軍によつて占領された聯合國の領土内で日本軍の庇護の下に学術上の探検或は発掘事業を指揮し又はこれに参加した者」の解釈は大体次の通りである。
一、旧満州國、中華民國、南方諸地域等で軍の庇護の下に純粋に軍事上の目的のため学術上の探検或は発掘事業を指揮し又はこれに参加した場合一應該当するのであるが世界文化の進展に寄与するが如き純粋に学術上の研究が主である場合は該当しない。
ニ、資源或は貴重なる物件を奪取する目的で考古学等に関する学術上の探検又は発掘事業を指揮し又はこれに参加した場合は該当するがそれらの物件を発掘したとしても科学的に分類整理して世界の学術に研究に役立て公共の利用に供し得るように取扱つたものであつて之を私の利益のための私蔵したものでなければ右に該当しないのである。
(文部大臣官房文書課 1949年3月 『終戰教育事務処理提要』第三集:369-370.)

何とも不可思議で珍妙な文章である。
1946年5月6日に公布された法律について、3か月後にその法文の「解釈が決定しましたから御承知下さい」と担当する組織の長が該当するであろう人たちが所属している組織に対して通知しているのである。
そもそも「大体次の通り」とは、何事だろう。
法令の解釈は、裁判官が下した判決や弁護士や検察官など法務行政に携わる人々が積み重ねるもので、公的機関が他の機関に通知するようなものではないと思うのだが。

第一項では、「純粋に軍事上の目的のため」という語句を挿入し、「該当する」という語句の前に「一應」という「ひとまず」といった含みを持たせた表現を冠し、「世界文化の進展に寄与するが如き」という全ての事例に対して当て嵌めることができる条件を付し、「純粋に学術上の研究が主である場合」といったこれまたこうした条件に当て嵌まらない事例は有り得ない解釈を提示する。
「純粋」とか「主である」とか、誰がどのように判断するのだろうか?

こうした志向は第ニ項においても顕著であり、外見的には法令に該当したとしても、「世界の学術に研究に役立て」れば、あるいは「公共の利用に供し得る」ならば、そして「私蔵したものでなければ」該当しないという、誰がどう見てもアクロバティックな解釈を連ねて、当然該当すべき人たちを救済している。

こうした解釈に該当しない場合など、世界の考古学史上で見出すことはほぼ不可能であろう。
これでは、当時「東亜考古学」あるいは「東洋考古学」と称された朝鮮半島考古学・中国大陸考古学すなわち侵略考古学に手を染めた日本人考古学者の誰一人として教職から追放された人がいなかったのも当然であろう。
自らが制定した法令を制定直後に有名無実化にしているのである。
世に言う「解釈改憲」である。

こうして戦後の「日本考古学」は何食わぬ顔をして(口を拭って? 胸を撫でおろして?)再出発したのである。
勅令第263号 別表第一 第六項の公示を受けて、該当するであろう「日本考古学者」たちが必死な思いで巻き返しを図っている様子が目に浮かぶようである。


nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。